中編3
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先生の異変

小学校二年生の終わりから視えるようになってしまった僕は、憂鬱な春休みをやり過ごし、春から三年生に進級した。そのときの担任の先生にまつわる話です。

担任になった箱山先生(仮名)は、新任の先生で僕らが担任として初めて受け持つ生徒たちだったという。おそらく最初のクラスだから、先生としてもナメられたくないのと緊張とかがあったのだと思うが、とても口うるさい先生であったのを覚えている。しかもクラス委員を勝手に指名し、僕と森野(仮名)という女子生徒がクラス委員にされてしまった。僕らは文句は言いながらも、クラス委員としての仕事はこなしていたが先生との折り合いは良い方ではなかった。

そして三年生の夏休みに入り、そのときは何事もなく夏休みを過ごして9月1日。異変は突然やってきた。

騒つく校庭。生徒どころか、先生たちまで騒ついていた。異変は直ぐに分かった。箱山先生だった。

元々細かった目は釣り上がり、今まで以上に細くなっていた。そして服装は喪服の着物姿であった。何があったのか分からなかったが明らかに異変が起きたのは事実だった。9月はまだ暑いはずなのに、まるいで真冬のように寒い何かが学校を覆っているように感じた。

そして教室へ入っても先生の格好は変わらぬままだった。凄まじくタブーな雰囲気を醸し出しつつ、先生は何事もなかったように出席を取り始めた。しかし生徒の返事は、怯えたように小さい声ばかりだった。すると先生は

「みんな、夏休み明けで疲れているのかしら?まあ、いいわ...」

そう言って立ち上がると突然、黒板消しを床に投げつけた。もはや、我々の知っている先生ではなかった。止めなくちゃという森野を制止して、近寄るべきじゃないと注意を促してから、出入り口に一番近いクラスメイトに隣のクラスに助けを求めるように言うと先生はケラケラと笑い出した。

「いひひひひひひひひ.........!」

あのゾッとする笑い声を今でも忘れない。その後、騒ぎを聞きつけた他の先生たちが駆けつけ、箱山先生を連れ出してしまった。我々は何が起こったのかまったく見当もつかなかった。翌日から急遽、担任は変更となり、新しい男の先生がやって来た。

それから箱山先生のことを一度だけ訪ねたが先生は、ニコっと笑って「気にしなくても大丈夫だよ」と答えてくれた。妙な蟠りが胸に残った。

その後、成人して直ぐくらいの頃に一度だけ箱山先生と再会した。既に教員は退職されていた。あの時のことを恐る恐る聴くと先生は涙ながらに答えてくれた。

「実はあのとき、亡くなった父の声が聞こえていたの。ずっと“お前なんか教師にむいていない。早く辞めて楽になれ”って。そんなことが続いていて、私は生徒たちを怖がらせて...。ノイローゼだったんだと思うけど...」

その後は箱山先生とも会っていない。だけど、会わない方が身のためだと感じた。なぜなら彼女の背後には、まさしくその父親であろう人物が真っ赤な姿で、凄まじい形相で潜んでいたからだ。父親という人はどういう人物だったのかは知らないが、そうとう彼女を邪険に扱っていたのだろう。まるで彼女をあの世に連れて行こうとしている感じだった。

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