首のない女の件以降、霊現象が視えるようになっていた僕は若干ノイローゼ気味でした。そんな僕に追い打ちをかける出来事が起こりました。
「泉さん(仮名)が三月いっぱいで転校することになりました。お別れ会は春休み中に行うので、参加者は言って下さい」
頭の中が一瞬で思考停止になったのを覚えています。僕は泉さんとは特別仲が良いわけではありませんでしたが、小学校入学と共に同じクラスになり、二年間ずっと隣同士の席でした。僕は彼女が好きだったので、ショックは隠しきれていなかったでしょう。
そんな事があった日の夜、不思議な夢を見ました。
黒いパーカーのようなものを着て、フードを被った泉さんが夢に出てきたのです。泉さんだ!と思って話しかけると彼女は笑顔で
「君は、私のところへは辿り着けないよ。もう終わりなのよ、君と私の縁は」
そう言うと彼女は、消えて行きました。目を覚ますとお別れ会の当日の朝になっていました。なんだったんだろうか?そう思って居間へ行くと当時三歳の従姉妹が来ていました。しかし、その手には泉さんに渡すプレゼントがぼろぼろな状態で握られていました。彼女は僕のカバンに入れておいたプレゼントをオモチャと思い、遊んでいるうちに壊してしまったのです。
とにかく新しいのを買いにいかなきゃ。時間は夕方だから、まだ間に合う。そう思ってお小遣いを貰い、直ぐに買いに出ました。その間、ずっと...
「君は辿り着けない」
という言葉が頭を過っていました。いざ店へ着くと店は休み。その後もいろいろ探し回りましたが、その日に限ってどこも空いていません。気がつくともう夕方近くでした。
「今からじゃ着いても夕方だ!」
そう思って急いで泉さんの家へ向かいます。なのに、まったく辿り着けない。バスならわずか数十分の距離が、渋滞で埋まっています。その間もずっと
「君と私の縁は切れるんだよ?」
「無駄なことよ?諦めて」
「辿り着けないから」
そう言った言葉が頭の中に流れ込んできました。そして薄暗くなった中でようやく泉さんの家へたどり着きました。だけど、もう誰もいませんでした。夢の中に出てきた泉さんの言う通りになった。なぜ、こんな日に...。そう思っていると
「おい!遅ぇぞ!」
口の悪い女の子の声が聞こえました。声の主は同じクラスで一番怖いと言われている森野(仮名)でした。彼女だけがその場で僕を待っていてくれたのだと言います。そして泉さんからの伝言を聞きました。
「元気でね。またねってさ」
森野はそれを伝えるために待っていてくれたというのです。この後、今まで泉さんに再会することは叶いませんでした。しかし、森野はなぜか今でも僕の人生にいろいろな形で現れるのです。
だけど、まだ憂鬱な春休みは続きます。
作者ウルフ