中編7
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臭いの元凶

皆さん、こんばんは

ニセ川ジンジュです

今宵も『カイ談ナイト』にようこそお越しくださいました

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こういうカイ談話を聴いていただくことを生業にしてますとね

地方へお邪魔する機会がたくさんあるんですよ

大変ありがたいことに、こうしてアタシの話を聴きに、たくさんの方がこうして足を運んでくださる

本当に嬉しい限りです

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これはね

アタシがカイ談ライブを始めて二、三年くらいした頃だったでしょうかね

とある地方にライブでお邪魔した時の話なんですが

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そこは日本海に面した所で

自然も豊かなイ~ィ所なんだ

風光明媚って言うんですかね

酒はウマイし、海に面してるから魚もウマイ

アタシみたいな酒呑みからしたら、天国みたいな所ですよ

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その上、皆さん人も良くて

お客さんも本当にいい方たちばかりで、大好きな場所なんですが

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その日もお陰様で、ライブはとっても盛り上がって、大盛況で終わりました

そのライブ終わりに、スタッフみんなでもって

「打ち上げをしよう!」

ってことになって、みんなで飲みに行ったんだ

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いわゆる、繁華街って言うのかなぁ

そこに、みんなで繰り出してって

居酒屋なんかに入って飲んだんだ

「あそこは盛り上がったなぁ」

「あの時の演出は良かった」

だとか、みんなでライブの話をしながら、イ~ィ気分で楽しく飲んでて

あんまり盛り上がったもんだから

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「もう一軒行こう!」

誰からともなく、そんな話になる

「いいねいいね♪」

なんて、みんなも言うもんだから

「じゃあ行くか!」

って、流れになったんだ

そして、みんな揃って居酒屋を出ると

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何だか暗ぁ~いんですよ

街灯がついてないとか、そういうことじゃなく

なんて言うのかな

何処か物悲しいって言うか

街全体がそんな雰囲気になってるんだ

あんなに賑やかだったのに

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何だか気持ち悪いなぁ~

なんて思いながらも、みんなで次の店を探す

まだ時間もそんなに遅いわけじゃない

なのに、なかなか飲み屋が見つからない

それどころか、さっきから誰ともすれ違わないんですよ

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「どうする?どうする?」

なんて言って歩いてると

細い路地の奥の方に

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明かりがボヤ~っと見える

「ニセ川さん!あそこ、どうですかね?」

若い男のスタッフの一人がアタシに言う

アタシも「え~……あれ、お店なのぉ?」なんて、はぐらかしてみたんだけど

「見てきます!」

彼は明かりの方へ

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タッタッタッタッ

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走って行く

それでまた、しばらくしてから

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タッタッタッタッ

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その子がこっちへ戻ってくる

「お店でした!まだ大丈夫だそうです!!」

ニコニコして、そんなこと言うもんだから

「じゃあ行こうか」

って、ことになって

みんなで、その路地の奥の方へ入ってった

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薄気味悪い路地を歩いてって、店に着いてみると

そこは古い造りの……時代劇なんかでよく見る『飯屋』の佇まいなんだ

でも、老舗みたいな感じじゃなく、ただ古いだけ

明かりがついてなけりゃ、空き家と間違えそうなくらいボロボロなんですよ

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アタシは

古いなぁ~…ボロいなぁ~

なんて思いながら、フッ……と顔を上げる

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そこ、寿司屋なんですよ

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だって、古ぼけた暖簾に『寿司』って、ちゃ~んと書いてある

それ見て、アタシは何だかイヤ~な予感がしたんだけど

みんなが、わらわらわらわら入ってくもんだから

アタシも入らないわけにはいかない

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意を決して

ヒョッ…

と、アタシも中に入る

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普通なんだ

中は、別に普通なんですよ

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ちょっとした小上がりにいくつかのテーブルと年季の入ったカウンター

壁には達筆な手書きのお品書きがズラーッと貼ってある

小さいけど昔ながらの普通の寿司屋

まさに、そんな感じなんだ

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カウンターの向こうには、頑固そうなコワモテの親父さんが一人、仏頂面で立ってて

「いらっしゃい」

なんて低い声で言われて、アタシも

「お世話になります」

って、空いてる席にみんなが適当に座る

でもね……

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全然、客がいないんですよ

アタシら以外に、ダ~レもいないんだ

まだ十時やそこらですよ?

まぁ、そんなこと気にしてもしょうがないから

親父さんに「適当に」ってお願いをすると

親父さんは「へい」って小さく返事して、ケースから魚を出してさばき始める

アタシは何となしにカウンター越しに手つきをボーッと見てた

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さすが職人さん

手際よく、キレ~イにウロコを取っていくんだ

そしたら、親父さんがいきなり

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shake

ドンッ!!!!

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「うわっ!!」

親父さん、振り下ろした包丁で、魚の頭を一発で落とした

あんまり音が大きかったもんだから

アタシもつい、情けない声出しちゃってね

それから親父さんが、握ってくれた寿司を、アタシの前に出してくれる

それをアタシは口にポーンと放り込む

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……ウマイんだ

これが

シャリとネタのバランスが絶妙なんですよ

アクセントのワサビもちゃ~んと利いてる

「ウマイなぁ~…ウマイなぁ~……」

って、みんなもどんどん酒が進む

酔いも回って調子に乗って、ドンチャン騒ぎまでしちゃったもんだから

だいぶ帰りが遅くなっちゃったんですよ

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そして、いざお開きってなった時に気づいちゃった

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待てよ?

ここは誰が払うんだ?

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アタシはゾッとする

小さくても寿司屋

お品書きに値段は書いてない

周りはみ~んな、アタシより若い

しかも、アタシは座長なわけだ

これは絶対、アタシの流れだ

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そう思って、コワモテの親父さんから伝票を受け取る

折り畳まれた伝票をゆぅ~っくり開いて

グッ!……と目を見開く

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安いんだ

七人で、あれだけ飲んで食って騒いだのに、予想より全然安かったんだ

アタシもけっこう酔っ払ってたもんだから、恐る恐る親父さんに

「これ、合ってます?」

って、訊いてみると

そしたら、親父さん

ヌゥ~ッ

と、仏頂面を近づけてきて

「合ってますよ」

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アタシはホッとして、親父さんに何度もお礼を言って、お金払って店を出た

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みんなで千鳥足でもって

トットットットッ

宿へ帰る

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宿って言っても、よく修学旅行で泊まるような小さな旅館みたいな所ですよ

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味のある入口の戸を

ガラッ!と開けて中へ入る

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あれ~?

玄関ロビーが暗いんだ

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フロントにもダ~レもいない

あれぇ~?おかしいなぁ~?

みんなで辺りを見渡す

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shake

ボォ~ン

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「うわぁ~!!!!」

みんな驚いて音の方を見ると

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ロビーの壁掛け時計が一時を指してた

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こんなに遅くなってたのか

アタシらは、奥から女将さんを呼んで、遅くなったのを丁寧に詫びながら部屋の鍵を受け取ったんだ

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「それじゃ、おやすみなさーい」

みんな、部屋へ散り散りに帰っていく

アタシも疲れてたんでしょうねぇ

部屋に帰った途端、布団にゴロ~ンと横になっちゃったもんだから

そのままウトウト~っとして

いつの間にか寝ちゃってたんですよ

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それから、どのくらい寝たのかはちょっと分かりませんがね

アタシは、ふと目を覚ました

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部屋の中は真~っ暗

な~んにも見えやしないんだ

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まだ夜中なんだなぁ~

なんて、寝ぼけた頭で思ってると

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クンクン……

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何だかミョ~な臭いがするんですよ

血のような…何かの死骸のような……

何だかよく分からない臭いが……

決して、いい匂いじゃないんだ

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何だろうなぁ~

なんて思いながらも、面倒で横になったままでいると

臭いはどんどん強くなっていく

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これはおかしいぞ?

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どうも気になって、アタシはダルい体を起こして暗い部屋の中を探してみたんですよ

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臭いの元は何処かなぁ?って

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壁伝いに歩いてって、窓の方に行く

臭い

でも、窓の方じゃない

そのまま、床の間の方にも行ってみる

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そこも臭い

でもやっぱり、そこでもないんだ

じゃあ、何処だろう

なんて思いながら、部屋の出入口の方まで行くと

トイレと風呂場があるんです

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そんなに大きいもんじゃありませんよ

トイレだって狭いし、風呂だってユニットバスですからね

アタシはまず、トイレの方を嗅いでみた

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そこも臭い

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でも、違う臭さの方が大きいから、そこも違う

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残すは、風呂場と手前の洗面所しかない

アタシは明かりも点けずに風呂場の戸を勢いよく開ける

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shake

ガラッ!!

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周りは全部真っ暗なもんだから、な~んにも見えやしない……

でも、かすかに音がするんです

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ピチョーン…ピチョーン……

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中から水が垂れる音がするんだ

アタシは恐る恐る風呂場の明かりをパチッと点ける

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でも、中には誰もいない

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アタシも部屋に帰ってからは風呂場には入ってない

でも、シャワーから水滴が

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ピチョーン…ピチョーン……

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滴ってるんだ

アタシがギュッとシャワーの蛇口を閉めてやると

水滴は止まりました

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何だ…しっかり閉めておかなかったんだなぁ

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なんて思いながら、風呂場を出て、何の気なしに顔をフッと横に向けてみた

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shake

「ギャッ!!」

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風呂場の前って脱衣場兼洗面所がありますよねぇ

そこには鏡もあるじゃないですか

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そこの鏡に映ってるんだ

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当たり前にアタシが

でも、よぉ~く見てみると

確かに、アタシに何かついてる

暗くて分からなかったけど、今は明かりがついてるから、ハッキリ映ってるのが見えるんですよ

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全体が潰れて乾いたのが、怨めしそうにベト~ッと……

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臭いの元凶はお前だったのか!

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アタシはそれが分かって、改めてゾ~ッとしましたねぇ

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あの血なまぐさい臭いの正体ね……

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口髭についてた『寿司屋で食べたイクラ』だったんですよ

Concrete
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フフってなりました。

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はじめまして初コメです。
ろっこめさんのは読者になっていつも読ませてもらってます。
いい感じの怖い雰囲気からの髭についたいくらには参りました(笑)

つーことで怖ポチしときます!

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