皆さん、こんばんは
ニセ川ジンジュです
今宵も『カイ談ナイト』にようこそお越しくださいました
nextpage
こういうカイ談話を聴いていただくことを生業にしてますとね
地方へお邪魔する機会がたくさんあるんですよ
大変ありがたいことに、こうしてアタシの話を聴きに、たくさんの方がこうして足を運んでくださる
本当に嬉しい限りです
nextpage
これはね
アタシがカイ談ライブを始めて二、三年くらいした頃だったでしょうかね
とある地方にライブでお邪魔した時の話なんですが
nextpage
そこは日本海に面した所で
自然も豊かなイ~ィ所なんだ
風光明媚って言うんですかね
酒はウマイし、海に面してるから魚もウマイ
アタシみたいな酒呑みからしたら、天国みたいな所ですよ
nextpage
その上、皆さん人も良くて
お客さんも本当にいい方たちばかりで、大好きな場所なんですが
nextpage
その日もお陰様で、ライブはとっても盛り上がって、大盛況で終わりました
そのライブ終わりに、スタッフみんなでもって
「打ち上げをしよう!」
ってことになって、みんなで飲みに行ったんだ
nextpage
いわゆる、繁華街って言うのかなぁ
そこに、みんなで繰り出してって
居酒屋なんかに入って飲んだんだ
「あそこは盛り上がったなぁ」
「あの時の演出は良かった」
だとか、みんなでライブの話をしながら、イ~ィ気分で楽しく飲んでて
あんまり盛り上がったもんだから
nextpage
「もう一軒行こう!」
誰からともなく、そんな話になる
「いいねいいね♪」
なんて、みんなも言うもんだから
「じゃあ行くか!」
って、流れになったんだ
そして、みんな揃って居酒屋を出ると
nextpage
何だか暗ぁ~いんですよ
街灯がついてないとか、そういうことじゃなく
なんて言うのかな
何処か物悲しいって言うか
街全体がそんな雰囲気になってるんだ
あんなに賑やかだったのに
nextpage
何だか気持ち悪いなぁ~
なんて思いながらも、みんなで次の店を探す
まだ時間もそんなに遅いわけじゃない
なのに、なかなか飲み屋が見つからない
それどころか、さっきから誰ともすれ違わないんですよ
nextpage
「どうする?どうする?」
なんて言って歩いてると
細い路地の奥の方に
nextpage
明かりがボヤ~っと見える
「ニセ川さん!あそこ、どうですかね?」
若い男のスタッフの一人がアタシに言う
アタシも「え~……あれ、お店なのぉ?」なんて、はぐらかしてみたんだけど
「見てきます!」
彼は明かりの方へ
nextpage
タッタッタッタッ
nextpage
走って行く
それでまた、しばらくしてから
nextpage
タッタッタッタッ
nextpage
その子がこっちへ戻ってくる
「お店でした!まだ大丈夫だそうです!!」
ニコニコして、そんなこと言うもんだから
「じゃあ行こうか」
って、ことになって
みんなで、その路地の奥の方へ入ってった
nextpage
薄気味悪い路地を歩いてって、店に着いてみると
そこは古い造りの……時代劇なんかでよく見る『飯屋』の佇まいなんだ
でも、老舗みたいな感じじゃなく、ただ古いだけ
明かりがついてなけりゃ、空き家と間違えそうなくらいボロボロなんですよ
nextpage
アタシは
古いなぁ~…ボロいなぁ~
なんて思いながら、フッ……と顔を上げる
nextpage
そこ、寿司屋なんですよ
nextpage
だって、古ぼけた暖簾に『寿司』って、ちゃ~んと書いてある
それ見て、アタシは何だかイヤ~な予感がしたんだけど
みんなが、わらわらわらわら入ってくもんだから
アタシも入らないわけにはいかない
nextpage
意を決して
ヒョッ…
と、アタシも中に入る
nextpage
普通なんだ
中は、別に普通なんですよ
nextpage
ちょっとした小上がりにいくつかのテーブルと年季の入ったカウンター
壁には達筆な手書きのお品書きがズラーッと貼ってある
小さいけど昔ながらの普通の寿司屋
まさに、そんな感じなんだ
nextpage
カウンターの向こうには、頑固そうなコワモテの親父さんが一人、仏頂面で立ってて
「いらっしゃい」
なんて低い声で言われて、アタシも
「お世話になります」
って、空いてる席にみんなが適当に座る
でもね……
nextpage
全然、客がいないんですよ
アタシら以外に、ダ~レもいないんだ
まだ十時やそこらですよ?
まぁ、そんなこと気にしてもしょうがないから
親父さんに「適当に」ってお願いをすると
親父さんは「へい」って小さく返事して、ケースから魚を出してさばき始める
アタシは何となしにカウンター越しに手つきをボーッと見てた
nextpage
さすが職人さん
手際よく、キレ~イにウロコを取っていくんだ
そしたら、親父さんがいきなり
nextpage
shake
ドンッ!!!!
nextpage
「うわっ!!」
親父さん、振り下ろした包丁で、魚の頭を一発で落とした
あんまり音が大きかったもんだから
アタシもつい、情けない声出しちゃってね
それから親父さんが、握ってくれた寿司を、アタシの前に出してくれる
それをアタシは口にポーンと放り込む
nextpage
……ウマイんだ
これが
シャリとネタのバランスが絶妙なんですよ
アクセントのワサビもちゃ~んと利いてる
「ウマイなぁ~…ウマイなぁ~……」
って、みんなもどんどん酒が進む
酔いも回って調子に乗って、ドンチャン騒ぎまでしちゃったもんだから
だいぶ帰りが遅くなっちゃったんですよ
nextpage
そして、いざお開きってなった時に気づいちゃった
nextpage
待てよ?
ここは誰が払うんだ?
nextpage
アタシはゾッとする
小さくても寿司屋
お品書きに値段は書いてない
周りはみ~んな、アタシより若い
しかも、アタシは座長なわけだ
これは絶対、アタシの流れだ
nextpage
そう思って、コワモテの親父さんから伝票を受け取る
折り畳まれた伝票をゆぅ~っくり開いて
グッ!……と目を見開く
nextpage
安いんだ
七人で、あれだけ飲んで食って騒いだのに、予想より全然安かったんだ
アタシもけっこう酔っ払ってたもんだから、恐る恐る親父さんに
「これ、合ってます?」
って、訊いてみると
そしたら、親父さん
ヌゥ~ッ
と、仏頂面を近づけてきて
「合ってますよ」
nextpage
アタシはホッとして、親父さんに何度もお礼を言って、お金払って店を出た
nextpage
みんなで千鳥足でもって
トットットットッ
宿へ帰る
nextpage
宿って言っても、よく修学旅行で泊まるような小さな旅館みたいな所ですよ
nextpage
味のある入口の戸を
ガラッ!と開けて中へ入る
nextpage
あれ~?
玄関ロビーが暗いんだ
nextpage
フロントにもダ~レもいない
あれぇ~?おかしいなぁ~?
みんなで辺りを見渡す
nextpage
shake
ボォ~ン
nextpage
「うわぁ~!!!!」
みんな驚いて音の方を見ると
nextpage
ロビーの壁掛け時計が一時を指してた
nextpage
こんなに遅くなってたのか
アタシらは、奥から女将さんを呼んで、遅くなったのを丁寧に詫びながら部屋の鍵を受け取ったんだ
nextpage
「それじゃ、おやすみなさーい」
みんな、部屋へ散り散りに帰っていく
アタシも疲れてたんでしょうねぇ
部屋に帰った途端、布団にゴロ~ンと横になっちゃったもんだから
そのままウトウト~っとして
いつの間にか寝ちゃってたんですよ
nextpage
それから、どのくらい寝たのかはちょっと分かりませんがね
アタシは、ふと目を覚ました
nextpage
部屋の中は真~っ暗
な~んにも見えやしないんだ
nextpage
まだ夜中なんだなぁ~
なんて、寝ぼけた頭で思ってると
nextpage
クンクン……
nextpage
何だかミョ~な臭いがするんですよ
血のような…何かの死骸のような……
何だかよく分からない臭いが……
決して、いい匂いじゃないんだ
nextpage
何だろうなぁ~
なんて思いながらも、面倒で横になったままでいると
臭いはどんどん強くなっていく
nextpage
これはおかしいぞ?
nextpage
どうも気になって、アタシはダルい体を起こして暗い部屋の中を探してみたんですよ
nextpage
臭いの元は何処かなぁ?って
nextpage
壁伝いに歩いてって、窓の方に行く
臭い
でも、窓の方じゃない
そのまま、床の間の方にも行ってみる
nextpage
そこも臭い
でもやっぱり、そこでもないんだ
じゃあ、何処だろう
なんて思いながら、部屋の出入口の方まで行くと
トイレと風呂場があるんです
nextpage
そんなに大きいもんじゃありませんよ
トイレだって狭いし、風呂だってユニットバスですからね
アタシはまず、トイレの方を嗅いでみた
nextpage
そこも臭い
nextpage
でも、違う臭さの方が大きいから、そこも違う
nextpage
残すは、風呂場と手前の洗面所しかない
アタシは明かりも点けずに風呂場の戸を勢いよく開ける
nextpage
shake
ガラッ!!
nextpage
周りは全部真っ暗なもんだから、な~んにも見えやしない……
でも、かすかに音がするんです
nextpage
ピチョーン…ピチョーン……
nextpage
中から水が垂れる音がするんだ
アタシは恐る恐る風呂場の明かりをパチッと点ける
nextpage
でも、中には誰もいない
nextpage
アタシも部屋に帰ってからは風呂場には入ってない
でも、シャワーから水滴が
nextpage
ピチョーン…ピチョーン……
nextpage
滴ってるんだ
アタシがギュッとシャワーの蛇口を閉めてやると
水滴は止まりました
nextpage
何だ…しっかり閉めておかなかったんだなぁ
nextpage
なんて思いながら、風呂場を出て、何の気なしに顔をフッと横に向けてみた
nextpage
shake
「ギャッ!!」
nextpage
風呂場の前って脱衣場兼洗面所がありますよねぇ
そこには鏡もあるじゃないですか
nextpage
そこの鏡に映ってるんだ
nextpage
当たり前にアタシが
でも、よぉ~く見てみると
確かに、アタシに何かついてる
暗くて分からなかったけど、今は明かりがついてるから、ハッキリ映ってるのが見えるんですよ
nextpage
全体が潰れて乾いたのが、怨めしそうにベト~ッと……
nextpage
臭いの元凶はお前だったのか!
nextpage
アタシはそれが分かって、改めてゾ~ッとしましたねぇ
nextpage
あの血なまぐさい臭いの正体ね……
nextpage
口髭についてた『寿司屋で食べたイクラ』だったんですよ
作者ろっこめ
あまりにもネタが思いつかず、仕事も忙しい。
そこで昨日、回転寿司に行きました。
えぇ、独りでです……。
( ;∀;)
そしたら、思いついてしまったんですよ。
全く怖くないことを雰囲気だけで何処までホラー感を出せるのか
そんな挑戦がしたかったんです。
(↑定期)
今回は初めて、画面ブルブル効果もつけてみました♪
構想およそ25分、総制作時間たぶん1時間チョイの大作です。
わたしが理想とする
『怖がりな人でも安心して楽しめる怪談』
自称『ポラー』の一つのカタチとして、どうか大目に見てあげてください。
この子も悪気はないんです。←しれっと他人事
なお、ニセ川ジンジュは架空の人物であり、誰かに似せているわけではなく、何でだかこうなっただけです。
たとえ、思い当たる人がいたとしても、それは気のせいであり、人違いですので、絶対に怒らないでください。
さて、今日も元気に社畜してきます!