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憂鬱な春休み②「殺しますわよ」

中編3
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憂鬱な春休み②「殺しますわよ」

泉さん(仮名)の一件後、僕には新しい友人が出来た。クラスでも一番怖いとされていた森野(仮名)である。話してみると彼女は言われるほど怖いやつではなかった。むしろ気さくな感じがする少女だ。泉さんを可愛い系と表現するならば、森野は綺麗系というところだろうか。しかし彼女の口の悪さは、人を励ましているつもりでも悪口に聞こえたり、ジョークが脅しに聞こえてしまうという、僕と同類の生粋のトラブルメーカーなのかもしれない。

そんな森野が春休み以降、なぜか僕の家に入り浸るようになった。理由は、当時人気だったテレビゲームであった。そのゲーム大ファンである彼女は、最新作を買った僕の家に、それ目当てで通ってくるようになった。

そんなある日、事件は起こったのである。手洗いに出た森野がなかなか戻らず様子を見に行くと洗面所でうずくまっている森野がいた。聞くと手を洗って何気なく鏡を見ていると背後に首のない着物の女が見えたと言うのである。僕は直ぐに母親にそれを言うと母は青い顔してお寺に電話をかけていた。僕は森野を一度、自室へ連れて行くがその道中で彼女の見たものが錯覚ではない事を確認した。

食い千切られたような金魚の死骸...

またである。

間違いなく首のない着物の女である。あの女は、また僕の側へ現れたのである。

直ぐに和尚が駆けつけて、霊視をしたあとにお経を唱え始める。森野は何が起きたか理解出来ない様子だったが、それが当たり前である。彼女が見たものもそうだが、目の前の光景だって通常じゃ有り得ない事なのだ。そんなとき家の電話が鳴り出した。母に出るように言われ僕は受話器を取る。

すると怒ったような息遣いが聞こえてくる。女の...

そして電話の主は僕に怒声を浴びせるように言った。

「殺しますわよ!!」

この声は母や森野、和尚にも聞こえたらしく三人は青い顔で見ている。和尚が受話器を貸せと言ってきたので僕は素直に渡すと、受話器に向かっお経を唱え出した。そのときだった。

ドン!ドン!ドン!

家中の窓やドアを一斉に叩く音が響いた。もう僕らは完全に身動きが取れない。そして極め付けに受話器のまえの窓ガラスにヒビが入った。和尚は汗だくの顔で

「これでこの家の中には入ってこれないでしょう。でも気になることがあります。前回、結界を作ったのですが、それが破られていました。誰かが意図的に破ったとしか考えられない」

そう良い残すと和尚は、大丈夫だが気をつけてと言って帰っていった。僕もその日は森野を陽のあるうちに送り届けていった。今から考えれば、この出来事はまだ大した事じゃなかった。後々のことを思えば...。

翌日、いつもの時間に森野は来なかった。それはそうだろう。だけどお陰で気がついたこともあった。あの首のない女を認識もしくは取り憑かれるのは髪の長い女であること。姉も森野も髪が長かった。だが、それが分かっても...何だか友達をなくした気分だった。あんな訳の分からない事態に巻き込まれたのだから、もう来るわけないか。すると昼過ぎにインターフォンがなった。

「よう!ゲームの続きやらせろ!」

森野、呆れたやつだ。

でも僕は嬉しかった。また来てくれた。そして自慢のロングをバッサリ切った彼女のショートは、やけに彼女に似合っていた。

だけど春休みはまだ続く。

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