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中編3
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タクシーでの帰り道

ある有名なアーティストのライブが終わって、私は帰りの支度をしていた。

ライブ会場からさほど家まで遠くなかったため、タクシーを呼んで待つことに。

大勢の観客が興奮収まらない中、ガヤガヤと駅に繋がる道を歩いていくのを横目に、私は少し奥に入った車通りが多い道で待っていた。

遠くの方をボーっと眺めていると

不意に「山口さんですかー??」

目の前にタクシーが止まって運転手に声をかけられる。

「あ、そうです。よく分かりましたね笑」

「いやー、長年の勘ですかね笑」

とても愛想のいい穏やかな運転手。

後部座席に乗り込んだ。

「あら、ライブの帰りですか?」

バックミラー越しに私が着ている服、持っている鞄などを見て運転手が尋ねてくる。

「ええ、最高でしたよ!」

その後も何気ない世間話をしながら、夜の繁華街を人と光を掻き分けるようにして走って行く。

そんな中、何か違和感があった。

タクシーの運転手と話しているのだが、普通バックミラーを見て話す際、私の目を見て話すものだが、運転手は、私の向かって右側、丁度運転手からは真後ろになる後部座席の方をチラチラみて話している。

ん?人見知りで目を見て話すのが苦手なのかな?

と思い特に気にする事なく、わいわいと世間話を続けていた。

15分くらいたった時だろうか?

運転手がいきなり「あの!ちょっとそこのコンビニに寄っていいですか? お手洗いが.....。」

おいおい、と思いつつ、運転に集中出来なくなられても困るので承諾し駐車場に入っていった。

「メーター止めますね。お客さんも中へどうですか?仲良くなれた記念に飲み物でも奢りましょう。」

自動で後部座席のドアが開く。

「いや、気持ちだけで結構ですよ。ありがとうございます。」

ちょっと強引だったため動揺していると、運転手の顔が見る見る青ざめていくのが感じられた。

「そ、そうですか! じゃあ私ちょっと行ってきますね!すみません!」

後部座席が閉められ、運転手が小走りでコンビニへ入っていく。

変な人だなー笑

と思い、暇なため夜の街をボーっと眺めて待っていた。

2〜3分だろうか。

ガチャと音と共に運転手が戻ってくる。

手には缶コーヒーを2本持ち、「お客さんはブラックかカフェオレかどちらがお好みで?」と差し伸べてくる。

お金を払うと言っても強く断るため、渋々いただいた。

「お客さん...いやー...びっくりしましたね。」

缶コーヒーを持つ手を少し震わせて運転手が引きつった顔で言った。

「え?なにがですか?」

運転手が動揺した顔をしてゆっくりと話し始めた。

「いやね......まず、お客さんをお迎えに上がった際、1人と聞いていましたが、お連れ様がいたんですよ。

そのお連れ様が先に乗り込み、後からお客さんが乗ったんですよ。

その最初に乗った.......... ソレ.......は何も言わずにずっと俯いて、表情が見えず気分でも悪いのかな?って心配してたんですよ。

ただね、お客さんとは何か雰囲気が違うような感じで、ライブの帰りの様ではなく、少しヨレた白いワンピースを着て、お客さんと同じ位でしょうか?若い女でした。

行き先をお客さんが言ったので、同じ場所でいいのかな?と思っていると、道中、その女がブツブツ俯いたまま何か言ってましてね、お客さんは何も気にする様子なく私と話していたんですよ。

そこでようやく、ああ これ生きてる人間ではないんだなと分かりました。

そしたら急に ''ここで降ろして'' と女が言ったんです。

びっくりして丁度目に入ったコンビニに入り、2人で中へ逃げようと思ったのですが、お客さん側の後部座席を開けるとスーッとお客さんをすり抜けて、ゆっくり出ていったんです。

もう、怖くてね。 フッと視線を逸らすとその女は消えてましたよ.........。

いやー.........あるんですね......こういう事。

さあ........ 帰りましょうか...。」

運転手が震えた手でエンジンをかけるのを見て、私は何も言えなかった。

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