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中編6
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遊園地の話六題

某遊園地には、乗車時間の長さを売りにした観覧車が存在する。

大変な人気スポットだが、カップルでこの場所を訪れるなら、

《直前に別れ話を匂わせていないかどうか》

は考えるべきだ。

数年前の冬に起きた事件。

別れ話のこじれた男女がこの観覧車に乗車、外周を周り再び戻ってきたときには、窓や座席は鮮血にまみれていた。

中から降りてきたのは包丁を持った男。女は中で惨殺されていた。

男は、女のほうから一方的に別れ話を持ち出され、以降は話し合いをしたいと言っても身の危険を感じたのか、二人きりになってくれなかったのだという。

遊園地の観覧車だ。

これだけ周りに人の目があるのだからまさか荒っぽいことはしない、女はそう踏んだのだろう。

そして、その考えこそが男の思うつぼだった。

外周を周り続ける十数分のあいだ、明確に殺意を持った人間と逃げ場もない狭い空間に二人きりーー考えるだに恐ろしい話だ。

男女ともに、別れ話のあとでしつこく観覧車に誘われるようならご注意を。

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海外の某テーマパークの話。

あるとき、男児の迷子が自ら従業員に助けを求めてきた。

年齢は五歳、名前はマット。

父、母、姉と自分の四人家族で遊びにきた、という情報は答えることができた。

取り乱すこともなく、至って冷静な子である。

園内放送を行い、ほどなくして本人が言ったままの父、母、姉が三人で迎えにやってきた。

マットは家族の顔を見るなり、駆け寄り抱きつく。

お互い一安心、家族一同で礼と謝罪を済ませ一件落着となった。

四人がその場を離れた、五分後。

《園内放送を聞いてマットを引き取りにきた》

という人々が再び現れた。

年恰好はまったく異なるものの、先程と同じマットの父、母、姉を名乗る人物。

彼らはマットと一緒に写る家族写真や身分証明書などを提示、果ては保育所や親類からの電話まで繋ぎ、

《我々が本物の家族である。我々の前にマットを引き取りにきた人物たちには何の心当たりもない》

と主張した。

そして、実際にその通り。本物の家族は彼らだったのである。

従業員たちは先程の家族に引き渡す際、マット本人が少しもおかしな素振りを見せなかったため、何の疑いも抱かず、名前や連絡先なども控えてはいなかった。

監視カメラにはマットと三人が談笑しつつそのまま園内を出ていく様子が記録されていたが、その後は近辺の交通機関等でも目撃されていない。

本物の家族は自家用車で訪れていたが、彼らは駐車場には現れなかった。

マットはなぜあのとき、年恰好のまるで違う家族を受け入れたのか?

なぜ、園内を出てから煙のように消えているのか?

あの家族たちは何者なのか?

従業員は全員事情聴取を受け、その後は泥沼の裁判沙汰となった。

当のマットも、連れ去った《家族》も、未だにその足跡は判らないままである。

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某巨大プールランドで短期間に三回、子供が溺れかけるという事故が発生した。

それも、まったく同じ場所。

密林を模した一画でのことだ。

プールサイドの土を被せた地面には本物の木々や草花が植えられ、はりぼての遺跡やトーテムポールなどが見える。

見ようによってはおどろおどろしい場所だが、それだけでは事故多発の原因にはなりえない。

当然しばらくの期間は閉鎖、原因究明ということになった。

しかし安全基準は完璧に守られているし、監視員の死角にもなっている訳でもない。むしろ監視員の近くだからこそ大事に至らなかったともいえる。

救助を行った監視員いわく、

《ふつうに足のついていた子供が、何かに引っ張られるように急に頭を沈めたように見えた》

と言った。

その発言を受けて清掃アルバイトの女性が恐る恐る、

《プールサイドの人形が怖い、という意見がある》

と言った。

確かに来場者アンケートには

《子供が怖いと言っていた》

《大人でも不気味に感じる》

といった意見が散見されていた。

その人形とは、

《民族衣装調の派手な衣服をまとった黒い猿》

のもの。

従業員同士で問題視されることはなかったが、確かに改めて見れば成人並の大きさをしており、真っ黒な毛に覆われ、巨大な目を光らせ、乱食い歯を剥き出しにして笑う猿の人形がじっとこちらに目線を向けている様は、妖怪じみて不気味な印象があった。

ひとまず人形を撤去することになり、男性従業員三人がかりで動かした。

その際に頭部が外れてしまい、中の空洞部が見えた。

胴体部には葉書ほどの大きさをした、大量の紙片が詰められていた。

そのすべてに象形文字のような、解読できない文字列が連ねてあった。

文字は赤と黒の毛筆体で書かれており、なかには赤黒い液体で浸したように全体が塗り潰された紙片や、書き損じによるものか余白の多いまま丸められた紙片も混ざっていたそうだ。

すべて取り出し、解体した人形と合わせゴミにしたという。

その後、監視体制を強化し再開の運びになったが、事故はまったく起きることがなくなった。

人形を設置したのは数年前に退社した従業員だったのだが、連絡をしたところ鬼籍に入っていたことが判明した。

人形との因果関係は不明である。

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あるジェットコースターには奇妙な噂がある。

雨の日に乗車すると、進んでいくルートの中程の地点に人がいるというのだ。

線路を横切る形で現れるその人物は、物凄いスピードで迫る車体にはっと驚いたような顔をして、接触と同時に掻き消えてしまうそうだ。

ジェットコースターはおろか、施設自体が新しく事故や土地にまつわる曰くもない。

なぜ、ジェットコースターなのか。

なぜ、その地点なのか。

なぜ、雨の日だけ現れるのか。

その人物の姿は、いわゆるプリンセスラインと呼ばれる、裾に向かってスカートが大きくふんわりと膨らんだスタイルのドレスを身にまとった西洋の女性だそうだ。

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お化け屋敷が苦手な女性の話。

友人に無理に誘われ、ある大規模なお化け屋敷に挑戦した。

館内の移動距離が長く、お化け役の人数も仕掛けも随一というのが売りだったらしい。

悪い友人もあったもので、彼女はわざと一人距離を離され置いてきぼりになる。

さんざん脅かされ、半泣きでゴールを目指す彼女を最大の仕掛けが襲った。

顔の崩れた恐ろしい容貌の女。

それは悲鳴をあげながら、空中を飛んでくるなり彼女の間近で血を噴き出しながら消えたのだ。

至近距離に居た彼女も血まみれになってしまい、服や荷物をめちゃくちゃにされたということでゴール後、友人たちと抗議に行った。

そのようなイベントは無いという従業員を説き伏せ調査をさせると、

《仕掛けに巻き込まれ亡くなっている、お化け役の女性従業員》

が発見されたという。

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某遊園地。

夜間警備員たちのあいだで語り草になっているのは、

《ロボット》

である。

閉園後、照明の少なくなった園内をロボットが歩き回っているのだという。

目撃されるのは半年に一回ほどで、監視カメラには映らない。必ず肉眼で見るそうだ。

大小の四角形を二つ重ねたような形状に細長い手、足はキャタピラーのついた、昔の漫画に登場するようなロボット。

実はこれ、SF風味のアトラクションの出入り口で、お客を迎えるために設置してあるキャラクターの姿と同じなのだ。

彼がひとりでに動き回るのか、得体の知れない存在がその姿をとるのかは判らないが、

《とくに悪さをするわけではない》

とのことで、警備員たちには受け入れられているそうだ。

Concrete
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