神奈川県。鶴見さんが中学生のときの話。
近所のゴミ捨て場にCDが二十枚ほど、ビニール紐で縛った状態で捨てられていた。当時流行っていたアイドルやバンドのものばかりである。
一緒に居た友人たちと儲けものだと持ち帰り、分配することになった。
しかし、実際に中をあらためてみると、すべてケースとは関係ない別のディスクが収まっていた。
盤面に印刷のされていない、個人で録音するためのディスク。
落胆した鶴見さんたちだが、すべての盤面に
《○○市○○町○番地》
などの地名が手書きで書かれている。
とりあえず、何かしら録音されてはいるようだ。
トラックは分けられておらず、一分程度の長さの一曲のみ。
ものの試しに再生してみるが、不明瞭な雑音がかすかに聴こえるだけで、一向に何も始まらない。三十秒ほど待って、ようやく
ーーバシッ!!
という衝撃音がスピーカーから響き渡った。
それから後は再び雑音に戻る。
鶴見さんたちは首を傾げながら、今度は別の地名が記されたディスクを再生。
書かれている地名は違うが、内容は一緒だ。
雑音のあと、衝撃音。
ーーバシャッ!!
再び、雑音が続く。
いくらディスクを変えても同じ。
ーーベシッ!!
ーーバキッ!!
ーードサッ!!
何枚目かで何を思ったか友人の一人が、トラックの終了間近で音量を最大にした。
『これ、サイレンじゃん』
言われてみれば、救急車かパトカーか、緊急車両のサイレンのような音がする。
人の話し声も。
一人ではなく大勢の、雑踏のざわめき。
靴音。車のクラクション。怒号。泣き声。
『これ、誰かの飛び降りを録音したんじゃないか』
誰ともなく言ったその言葉に、鶴見さんたちは再生を中断。
警察に相談すべきかどうかと議論になったが、結局は仲間内での秘密とし、すべて元の場所に戻してきた。
翌日には、その場から無くなっていたという。
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東京都。ゴミ収集員の久我山さんには、収集が憂鬱な地区がある。
閑静な高級住宅街なのだが、ここではいわゆる
《わら人形》
がゴミに混ぜて入れられた袋が出される、特定の収集場があるのだ。
だいたい決まって可燃ゴミの収集日だという。
二~三はわら人形入りゴミ袋が置かれており、そのゴミ自体も通常の生ゴミや紙片ではない。
高級な牛肉や魚介類が未開封のパックごといくつも入っていたり、丸められた紙幣が入っていたりする。
そしてわら人形が目立つように、わざわざ外から見えるように混ぜられているのだ。
一度など、わら人形だけが数十体ぎっしり入った袋が三つ重ねられていたこともある。
確かにそういったジョークグッズは市販されており、誰でも手にいれることができるようだが、人目につくように大量に捨てる理由は判らない。
ちなみに憂鬱な理由は
《かならず人形には五寸釘が刺さっており、袋を開封して分別作業を行わなくてはならないから》
だそうだ。
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新潟県。成川さんのジョギングコースである河川敷には、だいぶ前から放置されている洗濯機がある。
有名メーカーのロゴがすっかり錆びてしまった、おそらく不法投棄と思われるその洗濯機は、頻繁に置いてある位置が変わるという。
当初に捨てられていた場所から半径五十メートルほどの範囲を点々と移動しているようだが、それ以上どこかへ行くことはない。
何者かが意図的に動かしているにせよ、撤去や解体がなされる様子もない。
一度、横倒しになっているのを見かけた翌日に、元通りになっていたこともある。
成川さんの友人はある日の真夜中、まるで稼働しているかのようにガタガタと動いているのを目撃したことがあるそうだ。
真偽は不明だが、洗濯機はまだそこにある。
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山口県。徳田さんは子供のころ、近所の公園で妙な漫画を読んだことがある。
帯やカバー等は無い状態で、ゴミ箱に入っていたそうだ。
とにかくボロボロで、ページ自体が色褪せて傷だらけ、注意して持たないと勝手にページが外れていってしまうほど。
題名は記憶しておらず、巻数の表記などはなかったという。
前半は主人公の少女の日常がギャグ混じりに描かれていく。
しかし、中盤からどうやら主人公が何者かに命を狙われているらしい、ということが判明する。
助けを求めた親類や友人が理不尽に命を落とし(突然自ら地面に頭を何度も叩きつけ死ぬ、学校に虎が出現し喰われる等意味不明な死にかたばかり)、悩んだ主人公は自宅に引きこもりがちになってしまう。
なぜか両親が外出したきり深夜になっても帰ってこない、というエピソードのあとに、主人公は泣きながらお風呂にはいる。
すると、その背後に。
《片方の目と、鼻が無い男》
がふっと現れる。
主人公がその気配を察し、とうとう振り向いてしまう。
次のページで、顔面の崩壊した男が見開きで大写しになる。
怖がらせる場面とはいえ、男の顔は丸っこい少女漫画風味である全体のタッチを明らかに逸した、リアルで恐ろしいものだったそうだ。
次のページも次のページも、同じ見開き。
男が至近距離から読者を睨むページが延々と続き、やっと最終ページ。
同じ男のアップに漫画自体の書き文字ではなく、明らかに印刷後の、鉛筆による極太の書き込みで
《さ が し た ぞ》
と書きなぐってあった。
そして、主人公の末路や男の正体には触れず漫画はそのまま終わってしまう。
徳田さんは漫画をもとのゴミ箱に捨て、待ち合わせに現れた友人と別の場所へ行った。
なんとなく忘れることができず後日、再び公園を訪れてみたが漫画はなかったという。
徳田さんはこの謎の漫画を再読してみたいということである。題名が判る、似たような作品を知っているなどの情報があればご教示願いたい。
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千葉県。新島さんが住んでいるマンションで、風呂の排水口が詰まってしまった。
自力で解決するのは困難と判断し、業者を呼ぶことにした。
業者が点検を終えると
《汚れや髪の毛ではなく、なにか大きなゴミが詰まっているようだ》
との説明を受けた。
大がかりな修理をしなければ取れない、と言われ後日に改めることに。
当日は仕事があり修理に立ち会えなかったのだが、帰宅後に連絡を受けた。
修理を終えたという業者の説明いわく、排水口のパイプには
《豚の内臓が約二百グラム、溶けたロウソク、魚の目玉が9個、首から切断された鶏の頭2つ、血液が付着した大量の紙類》
が詰まっていたという。
覚えがないと弁解する新島さんに、業者は
《だとするならば、すぐに警察に相談したほうがよい事態だと思う》
と言った。
何者かが部屋に侵入した可能性がある、と。
真冬とはいえ腐敗が進んでおらず、詰まったのは近々のことだと考えられる、とも。
新島さんは警察に相談したが、
《物が盗られた、カギを壊された、など不法侵入の根拠がないと捜査ができない》
と判断されてしまった。
すぐに引っ越しの手はずを整え、自室のカーペットをはがし、運ぶ際に気づいた。
フローリングの床全体に、黒いインクらしきもので星形が描かれていたのだ。
それは廊下側から見るとさかさま、いわゆる逆五芒星になっていた。
当然、内見の際には存在しなかったもの。
新島さんは
《侵入した何者かは、部屋で黒魔術の儀式を行ったのではないか》
と考えている。
ーーここからは余談めく。
マンションのオーナーは高額な補修費用を全額、新島さんに請求。
納得できず話し合いを続けていたのだが、引っ越しの約1ヶ月後に突然
《やはり補修費用はけっこうです》
と、オーナーの代理人を名乗る人物から連絡があった。
何度か折り返しの連絡を試みたが、半年ほどで電話番号そのものが不通になってしまった。
これも、やはり理由は判らない。
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茨城県。束原さんがゴミを出そうと収集場の青いポリバケツを開けると、握りこぶしくらいの大きさの肉塊が入っていた。
正体が判らず観察しようとすると、それは素早くバケツの壁面を伝い、逃げていった。
《心臓》
に似ていたという。
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埼玉県。町田さんの祖父は農業を営んでおり、時節には収穫を手伝わされることもあった。
あるとき、作業道具をしまう納屋で祖父が刃物を振り上げている。
ばらばらに解体されているそれは
《かかし》
だった。
畑で使われているかかしの中には、祖父が処分しているものより古いものもあったはずである。
唐沢さんは
『なんでそれはダメなの?』
と訊いた。
『あすこに山があるだろう?』
顔をあげた祖父は、畑からごく近い山を指差す。
『かかしはただのお人形サンじゃない。山から降りてくるものが入って、はじめて畑を守ってくれる。でも、中にはよくないものがいる』
このかかしには、
《よくないもの》
が入ってしまったのだ、と祖父は言った。
唐沢さんはそれがかかしに入ると何をするのか、と訊いた。
『家ン中、覗きにくる。ゆうべも勝手にほっつき歩いてきて窓からずーっと見とった。ほっといたらロクなことにならん』
祖父は解体したかかしを焚き付けにして燃やした。
立ちのぼる黒い煙が風もないのに山の方角へ消えていく光景を、唐沢さんは記憶している。
祖父はだいぶ前に亡くなり、畑はすべて人の手に渡ったそうだ。
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