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中編3
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風呂場にいる

茨城県。

岡本さんの会社に入社した、新人のナミキさんはいわゆる

《不思議ちゃん》

であった。

霊感体質を自称し、通勤の近道に

《よくない霊がいたから》

と、わざわざ迂回し会社にやってくるという奇行を初日から披露してみせた。

しかし岡本さんの会社は出版関係であり、オカルト情報の媒体も多く発信している。変わり者社員のエピソードには事欠かない。

先輩になった岡本さんは、業務に支障をきたさない限りは彼女に理解を示す方針であたたかく見守ることにしたという。

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入社し半年が経過した頃、ナミキさんにある相談を持ちかけられる。

彼女が交際していた男性と、裁判沙汰になっているという深刻なものだ。

親身に相談にのると心を開いてくれたのか、ナミキさんは自分のあまり幸福とは言えない生い立ちや、精神的な問題で通院をしていることなどを打ち明けてくれた。

その後はどうにも放っておけず、岡本さんは何度か食事に誘い話を聞く場をもうけた。

あるとき、ナミキさんの自宅が岡本さんの住まいから遠くないことが判り、遊びにいく機会があった。

さぞかし魔よけやお札で溢れかえっていると思いきや、ごく普通の清潔なワンルーム。

ナミキさんに

《裁判の結果がよくない方向になりそうだ》

という話をされ、思い詰めた様子の彼女に岡本さんは少なからず金銭面の援助をしたという。

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それを皮切りに、仕事外の連絡を頻繁によこしてくるようになる。

お決まりだが深夜に電話をかけてきたり、都合を聞かずに自宅に来たりと、岡本さん個人の生活に支障が生じはじめた。

あるとき岡本さんは心を鬼にしてその依存ぶりをたしなめたのだが。

ナミキさんは必死で謝罪の言葉を繰り返し、涙を流しながら

《部屋に幽霊がでるようになった》

という話をした。

ナミキさんいわく、交際相手との裁判というのは三角関係のもつれであり第三者をまじえたもので、その第三者が裁判の結果を待たずに自死してしまったのだと。

そして、その霊が自宅にやってきて、厭がらせをするのだという。

唐突なオカルト話に、今まで真剣に耳を傾けていたのが馬鹿らしくなり、強い語気で説教じみたことも口にしてしまった。

よほどショックだったのか、ナミキさんは翌日、はじめて無断欠勤をする。

連絡をしても繋がらない。

三日間欠勤が続いたところで、岡本さんはナミキさんの自宅まで様子を見に行った。

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呼び鈴を鳴らしても応答がない。

鍵は開いていた。

岡本さんが声をかけながら入室する。

《来てくれたんですね》

真っ暗な部屋の隅で、じっとしているナミキさんがいた。

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事情を訊こうとする岡本さんの言葉を一切無視して

《お風呂場。お風呂場に、いるんです》

と言う。

何のことだろう、と岡本さんが訝りながら風呂場へ向かった。

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曇りガラスの戸の向こうに、人間のシルエットが張り付いていた。

そのシルエットは足が地についておらず、宙に浮かんだような状態で、手のひらをびたん、びたん、と曇りガラスに叩きつけた。

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岡本さんはそこからどう逃げたのか記憶していないそうだが、自宅で朝まで眠れず震えていたという。

何度もナミキさんへ連絡をいれたが、やはり繋がらない。

ようやく陽がのぼり、岡本さんは休暇日だったのだが

《会社に何と連絡すべきか》

と悩んでいると、先に会社のほうから連絡があった。

夜にナミキさんの両親に連絡がつき、彼女の自宅に様子を見に行ってくれた、とのこと。

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ナミキさんは亡くなっていたそうだ。

自宅の風呂場で首を吊って。

《責任を感じている》

《もう疲れた》

《死んだら二度と生まれ変わりたくない》

大意でそのように遺された、遺書らしき文面の日付は

《三日前》

のものだったそうだ。

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岡本さん自身はこれを恐い話だとは考えていない。

オカルト信奉者の彼女の面目躍如ではないか、と。

しかし、どうにかして生きたままナミキさんを救う方法はなかったのだろうかと今でも悔やんでいる。

Concrete
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とっても怖面白かったです。
短いお話なのに全て詰まっていて最高でした。
本当に怖いお話。
ありがとうございました。

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夜中に1人で読まない方がいいです。

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