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短編2
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阿修羅

その見慣れない飲み屋は、間口わずか二間ばかり

奥へ向かってカウンターの伸びる、いわゆるウナギの寝床というやつで

看板には「阿修羅」と大書してあった。

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暖簾をくぐるとまだ客はおらず

焼き台の前では作務衣を着た爺さんがひとり、うちわで炭を熾していた。

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「らっしゃい」

カウンター越しに酒をたのみ、そのついでに訊ねてみた。

「阿修羅なんて変わった名前だけれど、なにか由来でもあるのかい?」

爺さんは、へへへ、と笑ってごまかした。

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そのうちに団体客がドヤドヤなだれ込んできて

二十席ほどあるカウンターは、すべて満席となった。

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「シソ巻き」「焼鳥四人前」「うずらとネギ」「ジョッキ五つ」

わいわい騒ぎながら、みな勝手気ままに注文する。

こうなってくると爺さんひとりでは大変だ。

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「つくね」「手羽焼いて」「ほっけの開き、まだですか」「お酒ちょうだい」

ねじり鉢巻きで右往左往していた爺さんだが

ついに進退きわまったのか、おもむろに目を閉じて

合掌した。

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オン ケンバヤ ケンバヤ ソワカ

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すると突然、作務衣のそでから新しい腕がニョキニョキ伸びてきた。

同時に、顔の横から別の顔があらわれる。

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「わっ」

私は思わずイスから転げ落ちそうになったが

鬼神のごとき姿となった爺さんは、文字通り三面六臂の活躍をはじめた。

三つの顔で注文を聞き分け、六本の腕で焼鳥をひっくり返す。

他の客はそんな光景を見慣れているのか、みなニヤニヤしている。

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私は惚けたように口をぽかんと開けていたが

ふと爺さんは六つある視線をこちらへ向け、照れ笑いした。

「このご時勢、阿修羅にでもならなきゃ店はやってけないよ」

経営者の底力を見たような気がした。

Concrete
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@りこ-2様、いつもコメントありがとうございます。
こちらこそヨロシクです^^

以前、百物語として連載していたものを、ここのサイトに合うよう改稿してアップしてます。
いっぺんに出してしまうと他の投稿者さんのご迷惑になるので、少しずつ上げてゆこうと思ってます。
もしよろしければ、今後ともお付き合いくだされば嬉しいです。

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