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中編5
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振り向くな

これは、私の友人が友人から聞いた話です。

又聞きなので、どこまで本当のことかわからないけど、不気味な話なのでここに書いてみます。

その友人の友人というのは男性で、ここではAさんとしておきます。

Aさんは高校のときに部活でサッカーをやっていたそうです。その高校のサッカー部は結構強かったらしく、夏には欠かさず合宿をしていたようです。それもいつも同じ場所でした。

そこはいかにも高校の部活の合宿で使いそうな、だだっ広い座敷の雑魚寝部屋と簡素な食事を出す食堂、広いグラウンドを備えたところで、K合宿所といいました。

K合宿所には、旧館と呼ばれるところがあり、10年位前に新館ができて以来、全く使わなくなってしまった建物がありました。

建物自体は木造の2階建てでした。放置されていたせいか、周囲はすっかり蔦で覆われ、ガラスも所々破れていました。崩落の危険があるとやらで、「中は立入禁止」と、K合宿所の人からは厳しく言われていたそうです。

恐ろしい出来事が起こったのは、Aさんが3年生の最後の合宿のときでした。

Aさんたちは例年通り、K合宿所に来て、きつい練習をしていました。特に3年生は伝統的にこの合宿で引退をすることになっていたので、感慨も一入だったそうです。

その年の3年生は8人いました。Aさんを含めた8人は結構仲がよく、合宿二日目の夜もきつい練習にも関わらず夜遅くまで話し込んでいたそうです。

そのうち、一人が怪談を話し始めました。しかもK合宿所の旧館に纏わる話です。

それは、何年か前に旧館に肝試しに行ったサッカー部員が、途中で携帯電話で断末魔の叫びを残したままで帰ってこないで行方不明になってしまったーというような話だったそうです。

その話をきっかけに、何人かが自分の知っている怪談を披露しました。

それですっかり盛り上がってしまい、「俺たちも肝試しをしよう」ということになったそうです。

とはいえ、先生が見回りに来ることもあるので、8人のうち、4人は部屋で待機をし、4人が旧館に向かうということになりました。旧館は彼らが宿泊していた部屋からちょうど真正面に見えるところにあったので、都合が良かったのです。

外に出る組の4人は窓からそっと抜け出し、旧館を目指します。

4人の中で一人は懐中電灯を持っていますが、あまり早く光らせると先生に気づかれるので、旧館に入る直前まで暗くしていることにしました。また、先生が見回りに来ると行けないので、4人のうち一人は新館の方を向いていることにしました。

もし、先生が来たら、懐中電灯で二回ピカピカと合図を送るので、すぐに隠れる、という手はずでした。

その後ろを向いている役になったのが、この時最後尾を歩いていたAさんでした。

Aさんは最初こそ振り向き振り向き歩いていました、しかし、次第に、ほぼ後ろ歩きに近い状態で歩いていました。

そして、旧館の扉の前にたどり着くと、Aさんが懐中電灯を一度光らせて合図しました。

これが、「これから入るぞ」という合図でした。

新館の方から緊急事態(先生が来た!ということ)がないかをAさんが注意深く見ている時、背後では、残りの三人が旧館の扉を開けようとしている様子が伺えました。

「開いたぞ」

3人のうちの一人が小声でAさんに言いました。

ところが、Aさんが振り向こうとした矢先、

「お、おい!あれ・・・あれなんだ?!」

別の部員が震えるような声を出しました。

この時、Aさんはとっさに振り向くのをやめたようです。なんでやめたのかよくわからなかったのですが、「振り向いてはいけない」と強く思ったそうです。

「ちょ・・・あれ・・・」

「いや・・!く、来るな・・・!」

背後で3人は口々に「何か」を恐れているような声を出しています。

Aさんは恐る恐る振り向こうとしましたが、

「おい!やばいよ、やばい!・・・早く逃げろ!」

「A!振り向くな!そのまま走れ!!!」

と、言われたその声に弾かれるように、Aさんはそのまま振り返らずに走りました。

残りの部員も背後から走ってくる気配がしました。

しかし、

「があ!!・・・」

一人が倒れ、それから、ずり・・・ずり・・・と引きずられていくような音が聞こえました。

「や!やめろぉ!」

もう一人もまるで背後からひっつかまれ、引き込まれるような声を出し、そのまま引きずられていったようです。

また、最後の一人も

「ダメだ!・・・うわあ!!」

じゃりじゃりじゃり・・・と石の上を引きずるような音を立ててもう一人も引きずられていくのがわかったそうです。

Aさんは必死に新館まで走りました。次はその「何か」が自分にも襲いかかるのではないかと思い、死にものぐるいだったそうです。途中で何度か転びそうになりながらなんとか新館にたどり着き、仲間たちがいる部屋に戻りました。

部屋では、必死の形相で戻ってきたAさんを残った4人が不思議そうに眺めていたました。

Aさんは、他の三人が「何か」を見たこと

その「何か」に三人が旧館に引きずり込まれたこと

自分はそこから必死で逃げてきたこと

を息も絶え絶えに説明しました。

ところが、新館から旧館を見ていた4人は「これから入るぞ」の合図のあと、しばらくして、突然Aさんがこっちに向かって走ってきたことしか見えなかったそうです。

旧館の入り口は木立に隔てられ、なんとなくは見えるもののはっきりと何が起こっているかわからないというのでした。

とにかく、Aさんとしては二度と旧館に近づきたくなかったし、それでも仲間は気になるしで、どうしようかと思案したのですが、三人を探そうと先生に言うわけにもいかず、結局、彼らが悪ふざけをしたのだろう、そのうち戻ってくるだろうということに落ち着き、寝てしまうことにしたのです。

次の日の朝、三人が何事もなく戻って来ていることを期待していましたが、戻ってきていません。さすがに隠しておくわけにはいかず、先生に昨夜、肝試しをしたこと、三人が旧館に入っていったことなどを言ったそうです。この時、引きずり込まれたーというのは信じてもらえないと思って言わなかったそうです。

三人が戻ってこないことを心配した先生が数人で旧館に探しに行ったところ、旧館二階の奥の客室で、三人が並んで首を吊っているのが発見されました。

Aさんたちは、なんだかんだと事情を聞かれましたが、当然「肝試しをした」「Aさんだけが帰ってきた」以外のことは言えず、最終的には、三人が受験を苦にして発作的に集団自殺をしたーということにされてしまいました。

その時以来、その高校のサッカー部は廃部になったそうです。

あのとき、三人が見たものが何なのか

振り向いていたら、Aさんがどうなっていたのか

それはAさん自身にもわからないことだそうです。

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