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短編1
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風呂に関する短い話 一

《風呂で髪を洗っているあいだは、背後に霊が集まりやすい》

という有名な話がある。

由起子さんは、昔からそういった類の気配を感じやすかった。

趣味の悪いことに、独り暮らしを始めたばかりの由起子さんへわざわざそんな話を伝えた者が居たらしい。

少し怖くなったが、気配を感じたときは背中を風呂場の壁にピッタリとつけて洗髪するようにした。

対処法を見つけ気が紛れたのか、いつしか話自体も忘れ二ヶ月ほど経過したある夜、風呂で洗髪中に。

ふと、背後にハッキリと気配を感じた。

《風呂で髪を洗っているあいだは……》

この話を突然、思い出したという。

少し恐ろしくはなったが、壁に背中をつけてしまえば問題ない。

そのまま洗髪を続けると。

ふとなにかが触れた。

うつむいて閉じていた両目に、である。

眼球を押す、冷たい指の腹の感触。

そのまま頬をぺたり、と指以上に冷たい手のひらに包まれる。

由起子さんのまぶたを指でぐっ、と持ち上げ、《それ》は明らかに目を開かせようとしたそうだ。

由起子さんは絶対に目を開けぬように抵抗し、大きな声を出しながら、髪についた泡を洗い流すのもそこそこに手探りで風呂を出た。

どうやら、背後と限った話でもないらしい。

わざわざ風呂なし物件に引っ越した由起子さんは現在、銭湯通いを続けている。

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