真吾さんが自宅をリフォームしたときの話。
着々と工事が進められていくなかで、浴室を担当していた業者が何かを見つけた。
浴槽を解体して外し、新たなものに変える予定だったのだが。
むき出しになった床の、ほんのわずかな空間に長方形の箱が収まっていた。
贈答品の煎餅を入れるようなアルミ缶。
それは長いこと風呂桶と床のあいだに下敷きになり続けていたせいだろうか、錆びにまみれていた。
曾祖父が建て受け継いできた家である。すわ隠し財産かと開けてみると、なかにはまたしても箱。
今度は木製の桐箱で、こちらも外側ほどではないがカビで汚損していた。
いやがうえにも期待が高まり、それも開封。
和紙で厳重に包まれた中身は
《大量の写真》
であった。
白黒で、相当に古い年代のものであるらしい。
畳の床と布団らしきものが写っている。この家の、和室に違いなかった。
布団のなかには男の老人が仰向けで寝ており、それを真上から撮影したものと思われた。
目を見開き、撮影者を鬼のような形相で睨み付けている。
そんな写真が、百枚以上はあった。
まったく同じ画角であるが、若干の色味と老人の頭の位置にわずかな差異がある。時や日をあらためながら何枚も何枚も撮りためたのだろう。
そしてこの老人は、家族の誰もが知らない人物であった。アルバムはそれなりに多い家庭なのだが、どの写真にも似た人物すら存在していない。
撮影の意図も判らなければ、保管場所も解せない。
何より長年、風呂に入るたびにこの老人に睨み付けられていたのだ、と考えると不気味きわまりなかった。
写真はすべて、業者がゴミとして引き取ってくれたそうだ。
作者退会会員