おれの趣味は、ブログに野鳥の写真を掲載することで
ときには鳴き声を録音して、アップロードしたりもする。
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これは去年の夏に、友人とふたりで
富士山のふもとまで、野鳥の観察をしに行ったときのはなし。
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精進口から青木ヶ原の樹海へ入り
遊歩道を少し外れたところで、こっそりキャンプをした。
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オオルリや、サンコウチョウなどの珍しい写真が撮れ
おれたちは上機嫌だった。
さらに途中で、フクロウの営巣木をみつけたので
PCMレコーダーを仕込んでおいた。
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その後テントで一泊し
翌朝コーヒーを飲みながら回収したレコーダーをチェックしていると
録音開始から十時間くらいして、ハイカーらしき男女の話し声が割り込んでいることに気づいた。
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〈おいコレ見ろよ、なんか録音してるみたいだぞ〉
〈あ、ホントだ〉
〈アー、アー、聞こえますかー〉
〈やめなさいって、持ち主に叱られるわよ〉
クスクスという女の笑い声。
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〈えー、それじゃあ森進一のモノマネをやりまーす。おふくろさんよォー〉
〈だから、やめなさいってば、ほんとバカなんだからァ〉
二人で大笑いしている。
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その後三分ほど、彼らはレコーダーにいたずらをし
やがて気がすんだのか、その場から去っていった。
おれと友人は顔を見合わせた。
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録音を始めたのは午後三時ごろ
それから十時間後の音声だ。
しかもグランドノイズを回避するため
レコーダーは、ぶり縄で足場をつくり高い枝のうえに設置している。
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どうやらその辺りの森では
深夜一時すぎに
地上五メートルのところを、ハイカーたちが闊歩しているらしい。
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五合目まで登るつもりでいたのを、予定を切りあげ
おれたちは、早々にテントをたたんで帰路についた……。
作者薔薇の葬列
掌編怪談集「なめこ太郎」その九十一