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短編2
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昆虫採集セット

今ではもう見かけなくなったが

おれが小学生の時分には、下校途中の路上でよく露天商が屋台を出していたものだ。

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ポン菓子、ひよこ、カタ抜き

どれもお祭りの夜店でふつうに買えそうなものばかりだが

なかには怪しげな商品もあった。

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そのとき売られていたのは、昆虫採集セットだった。

虫の標本をつくるためのツールで、たしか五百円だったと思う。

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セット内容は、注射器、薬液、虫めがね、ピンセットなどで

赤い液が殺虫剤、青いのが防腐剤……

のはずだが、箱をあけてびっくり。

青い薬ビンには「蘇生剤」というラベルが貼られていた。

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さっそく、つかまえた蝶で実験してみることにした。

じたばた暴れる背中へブスッ

赤い液を注入するとじきに動かなくなる。

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今度は青い液だ。

おなじように背中へ注射して縁石に乗せ、待つこと一分。

あっ、動いた。

と思うやたちまち息を吹き返し、ヒラヒラと空へ舞いあがった。

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面白い、面白い。

バッタ、蜘蛛、コガネムシ、どれも赤い液で死んで、青い液を打てば生き返る。

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調子に乗ったおれは、家で飼っていた金魚、カナリヤ、ハムスター

ついには、柴犬のピコにまで手を出した。

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ピコはなにも知らずしっぽを振っていたが、赤い液を注射するとすぐに冷たくなった。

あわてて青いほうを注射する。

ムクッと身を起こしたピコは、突然もの凄い勢いで吠えかかってきた。

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わっ、ごめんごめん。

と謝ったが、様子が変だ。

目の焦点が合っておらず、口の端からよだれを垂らしている。

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けっきょくピコは、何日経っても元へ戻らず

怖くなったおれは、その昆虫採集セットを捨ててしまった。

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じつをいうと、もしピコがちゃんと生き返ったら

つぎは弟で試してみようと思っていたのだ……。

Concrete
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