卓弥さんが夜道の住宅街を歩いていると、ある一軒家の前に差し掛かった。
風呂場の窓が歩道に面した家である。
入浴中だからなのか、他の部屋には灯りがついていない。
風呂場だけが暖色の照明に照らされ、複数の人型のシルエットが見えた。
大人の影が二つ、子供の影が一つ。
三人家族だろうか。
声は聞こえないが、三人の黒い影は手を振り回し、激しく踊っているようだった。
その賑やかさに思わず吹き出しつつ、通過。
後日、その一軒家は過去に火事を出しており、現在の家屋は建て替えられたものであることを知る。
おそらくあの三人家族が前入居者で、火事の犠牲者なのだろう。
《よく考えれば踊っているように見えたのは、火の粉をふりはらっていたのだと思う》
と卓弥さんは言った。
現在の家屋には別の住人が居るようなのだが、このことは伝えていない。
作者退会会員