バイト先の女性から娘が聞いた話である。
その女性は六十年配の人で、特に役職にはついていないものの、一番のベテランさんということで、仕事を仕切っていたのだそうだ。
ある日、娘が友人とのドライブ中、山中でタヌキをはねてしまった。
急いで車から降り、横たわるタヌキのそばに行ったが、タヌキは絶命していた。ごめんなさいと心から謝りながら、友人と一緒にタヌキを道路脇の草むらに運び、近くに落ちていた棒を使ってタヌキを葬り手を合わせてきたらしい。
バイトに行ってからそのことを女性に話した。
すると、女性が娘に言うのだそうだ。
「タヌキなら大丈夫だけど、猫は殺しちゃだめだよ、絶対」
その女性が子供の頃、誤って仔猫を殺してしまったのだという。
あ、死んでしまった。
ただそう思っただけでそのまま何もせず、家に帰り、夕食を食べ風呂に入り床に入った。
すると、その女性の寝室の障子に影が映るのだという。
「仔猫の姿がね、障子の向こうにいてさ、影になって映るんだよ」
女性は怖くなり、目を閉じ布団の中で
「ごめんなさいごめんなさい許してくださいごめんなさい…」
と謝り続けたという。
次の夜もその次の夜も、障子の影に仔猫が映った。
そのたび、女性は目を閉じ何度も何度も心の中で謝り続けたのだという。
そうしてやっと一週間が過ぎた頃だろうか、仔猫の姿がなくなったのだという。
「だからね」
と女性が娘に言う。
「猫は怖いよ、祟るんだよ。猫は殺しちゃだめだよ」
作者anemone