都内某所の地下道には
《こわいはなしをおしえてください》
と消え入りそうな細い線で描かれた落書きがある。
和昌さんが小学生の時分、この場所に怪談を書き加えると呪われる、という噂があった。
友人ら数人と肝試し感覚でその場所を訪れ、一人につき一つ、数行の《こわいはなし》の落書きを書き加えた。
その場は、何事も起きなかった。
帰宅後の夜、自宅の電話が鳴る。和昌さんの母親が繋いでくれた。
《カズに代わってくれと言っているよ》
という口調から、知り合いと信じて疑わずに応答すると。
ひどいノイズと暴風のような音が数秒間聞こえ、それ以外はなにも聞き取れない。こちらから誰何しても、返答はない。
切ってしまおうかと考えた矢先。それを察したかのように、まったく知らない女の声で
《……アリガトウゴザイマシタ……》
と言われ、直後に電話は切れてしまった。
母親に問いただしても《友人だと思った》というだけで、先方の名前なども聞かなかったという。
次の日、学校に行くと。
昨日の落書きに参加した連中全員に、謎の女からの電話がかかってきていたことが判明。
もれなく、自分達の電話番号と名前を知っており、名指しで訪ねてきたことになる。
誰のイタズラでもないと判り
《呪われたのだ》
と考えた一同は例の地下道へおもむき、自分達の落書きを消そうという話になった。
少ない小遣いを折半し購入したスポンジやら洗剤やらを持って集まると。
落書きは、なかった。
正確には
《こわいはなしをおしえてください》
の落書きだけがあり、自分達の書き加えた怪談はすべて壁に吸い込まれたように消え失せていたそうだ。
ちなみにこの
《こわいはなしをおしえてください》
の文字、現在も同じ場所に存在している。
作者退会会員