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中編3
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消える人

息子から聞いた話である。

息子が通っていた高校は、第二次世界大戦中、陸軍の病院だった。これは噂というのではなく、きちんと校内に慰霊碑が立っているというまぎれもない史実である。

病院跡地に校舎を建てたというわけだ。

このようなケースはさほどめずらしいことではないだろう。戦争は人や国を狂わす。あらゆるものよりも戦争に勝つことが優先され、戦闘機や兵器を造る工場が莫大な資金と土地を確保していた時代なのだと思う。

広い敷地は学校などを建てるのにはうってつけである。私の出身中学校も戦時中は飛行場だった。

そして、このような歴史を持つ建物にありがちな怖い話というものが、やはり息子の高校にも存在しているのだと言う。

ただ、では軍人の霊が目撃されるとか当時のナース服を着た看護婦が夜の校舎を歩いているとかそのような話なのかといえば、そうではないと言う。

行き止まりの場所を歩いていく人が姿を消すという、それだけなのだそうだが。

だからもしかしたら、戦時中病院だったという史実は関係がないのかもしれないが。

息子は部活の都合上、高校の寮に入っていた。寮は学校の敷地内にあり、校舎まで外を通らず行けるので、天候の悪い日などはとても便利だったという。

定期的に寮の掃除をする。ごみを袋にまとめ、敷地内にあるごみ置き場へ捨てに行く。

ごみ置き場となっているプレハブは学校をぐるっと囲む塀のすぐそばにあった。その手前には両側に並行して建つように校舎があり、二つの校舎の間を過ぎたところにプレハブがあるという形になる。

プレハブを挟んで左側には校舎やその向こうにさらに校舎、体育館、学校の施設等並んでいるので左側には入っていくことはできないが、右側の校舎はプレハブの手前で終わっているので塀づたいに入って行くことはできるのだと言う。

ただ、突き当りは塀になる。入った人は必ず戻ってくることになると、息子は言う。

息子がごみを抱え、プレハブに向かっていた。

本当はプレハブの中にきちんと入れなければいけないのだが、そこは出るという噂を聞いていた息子は入り口からごみ袋を中に向かって放り投げるだけにしたという。

その、中に向かってごみ袋を放り投げていた時、息子の右側を校舎の奥、右側の方に向かって誰かが歩いていくのが見えた。

あ、守衛さんかな?と思ったと言う。

寮生だった息子は守衛さんとも顔なじみだった。

プレハブの中にごみを放り込んだ息子は守衛さんが戻るのを待っていた。だが、しばらく待っても守衛さんは来ない。

あれ?と思った息子は校舎の右側奥をのぞきこんでみた。

誰もいなかった。

行き止まりは校舎と塀に挟まれ人が歩けるスペースはない。

それよりも行く理由がない。行ってもそこには何もないのだから。

息子は急いで寮に戻った。

息子の高校は県内でも大きな市の中心部にあり、隣にも他の高校が建っている。

実はその高校は私の出身校なのだが、私が在学中、夜になると校庭を軍人が列をなして歩いているという噂があった。

当時、史実などまったく知らなかった私は、なんで軍人さん?と思っていたが、息子の話を聞いてなるほどと納得した。

息子の高校と私の出身校は校庭が塀を挟んで隣り合っている。

病院跡地の息子の高校から私の出身校へ向かって、軍人は行進をしていたのだろうか。

息子が見た人は軍人ではない。

だからもし、それがなにか、この世のものではなかったとしても史実とは関係がないように思える。

だが、それ以降、息子はごみ捨ては後輩に行かせることにしたという。

ひどいやつである。

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