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怖い話に関する短い話 五

短編2
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怖い話に関する短い話 五

陽介さんがアパートで一人住まいをはじめたころ。

隣の部屋に、若い夫婦と三歳くらいの女の子という家族が住んでいた。両親はどちらも人当たりがよく、会えばいつも笑顔の挨拶をかかさない。

入居から半年ほどが経ったころ。

夜になると、女の子のすすり泣きが聞こえるようになった。

《こわい……こわいよう……》

と、ただごとではない様子。

泣き声だけではなく、向こうから陽介さんの部屋の壁を《とつとつ》と力なく叩いてさえいる。

それが三日間続き、さすがに様子を見に行った。

呼び鈴を鳴らすと、いつもどおりニコニコと母親が応対してくれた。

《こどもが怖い、と泣いているようだけど》

と問いただすと

《最近怖い話のテレビを観て、寝る前に電気を消すとぐずるのだ》

と説明してくれた。

その間も部屋のなかからは女の子の声が聞こえていたのだが、押しのけて入っていくこともできない。

その場は退散したが、明くる日に部屋の前に警察が大勢来ていた。近隣の人間が通報したらしい。陽介さんはまったく感じなかったのだが《臭いがする》と。

あの優しそうな両親は逮捕された。

虐待の疑いである。

女の子は亡くなっていたそうだ。

一週間ほど前に息をしなくなったところをゴミ袋に包み、押し入れにしまいこんであったらしい。

部屋の構造的に、陽介さんが寝ているベッドと一枚壁をへだてた場所ということになる。

通報があるほどの悪臭に、隣室の陽介さんが気付かなかったこと。

おそらく散々いたぶられていたろうに、死に至らしめられるまで泣き声ひとつあげていなかった女の子の声が、亡くなってからようやく聞こえたこと。

そしてあの壁を叩く音。

不可解ではあるが、とっくに死んでいるこどもの声がする、と隣人に言われて

《怖い話のテレビを観せたから》

と笑顔で咄嗟に答えられるその心のさまがいちばん恐ろしい、と陽介さんは言った。

Concrete
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