怖い話に関する短い話 九

短編2
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怖い話に関する短い話 九

幹郎さんは高校生のころ、就寝時に深夜ラジオを聴く習慣があった。

ある夜、妙な怪談が放送されたことがある。

番組名や放送局、出演者の名前は不明。関東系列ネット。八十年代後半ごろ。深夜一時から三時の間くらい、とのこと。

番組の冒頭から聴いたわけではないらしく、主題が怪談であったかどうかは定かではないうえ、正確には怪談かどうかすら判らない。

CMが明け、恐怖心をあおるようなSEが流れたため、幹郎さんはそう判断した。

部屋の照明を消し、目を閉じる。横になりつつイヤホンで聴いていたのだが。

最初に、低い男性の声で

《め……》

と読み上げられた。

続いて《め》その次も《め》

《め。め。め。め。め、め、め……》

三分ほど、続いたそうだ。

《め》って《目》のことだろうか?

そう思った瞬間。

《め》が読み上げられる速度は上がり、プライバシー保護変声のような声で《めめめめめめ……》と大音量で鳴り響いた。

驚いて飛び起き、部屋の照明を点ける。

部屋の暗闇が蛍光灯の光に照らされるその刹那。

家具と壁、窓際のカーテン、棚にある本と本、部屋の隙間という隙間から《なにかの目》がびっしりと並び、覗いていたのが見えたという。

自室を逃げ出した幹郎さんは、当分のあいだ両親と就寝していたそうだが、あれは自分の見間違い、ラジオも《そういう怪談》だったのだ、と幹郎さんは自分を納得させている。たとえ、今に至るまでこの放送を聴いたという人間に一人として出会っていなくても。

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