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中編6
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令「最近、外の世界が騒がしくないですかい?」

幽「それはもう3月ですからね。もっとも、今に限っては騒がしいのは別の理由でしょうけど‥そうですね。今日のお話はこれにしましょうか。」

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幽「その男はね。今の生活に嫌気がさしていました。毎日毎日同じことの繰り返し。定時に出社して定時に帰る。そんな生活がこれまでずっと続き、これからも続いていくんじゃないかと。」

令「俺からしてみたら贅沢な悩みだって思いますけどね。」

幽「同じ事考えてる人、結構多いと思いますよ。‥それはともかく、そんな時に男は大学時代の友達に会ったのよ。これをAとしますね。」

男「おぅ。久しぶり。こんなところで会うなんて奇遇やなぁ。最近どうよ。」

A「まぁ楽しいよ。詳しくは言えないけど、毎日色々あってさ。充実してるんだ。そっちは?」

男「すげえな。こっちは毎日おんなじことの繰り返しで飽き飽きしてる。勤め人だからしょうがないけどな。どうだ。今日は日曜だろ?せっかくだから酒でも飲んで昔話でもしないか?」

A「良いな。今日は赤月の星日なんだ。大いに楽しまなくっちゃいけない。今日はおごるよ。どこいこうか。」

令「ちょっと。」 

幽「はい?」

令「途中なんていいました?確か赤月の星日とか言ってましたよね?なんですかそれ。」

幽「聞こえているではありませんか。男もその点は引っかかったものの、あまり深くは突っ込まずにその日を楽しんだわけですよ。さて、普通の日常に男はもどるのですが、どうもあの言葉がひっかかる。電話をしてAに聞いてみた訳です。」

男「なぁ。あの時の赤月とか星日って、なんのことだい?気になってしょうがなくてさ。」

A「あ、しまった。つい口から出ていたな。本当はあんまり広めちゃいけないんだけど、まぁ君なら大丈夫か。これはカレンダーの一種でね。まぁ手に入れるのは少し大変なんだけど、その価値はあるよ。確か君は同じ毎日が退屈なんだっけ?ならやってみると良い。組織には僕が紹介しておくよ」

幽「その会話から2#3日経って、男の家に書類が送られてきました。変わらない毎日をどう思うかについての感想を書けと。それを書いて返送すると、すぐに黒い手帳が送られてきましてね。どうやら合格らしいとのこと。」

令「手帳の中身は?」

幽「これは小型のカレンダーなんですが、そもそも月、年の概念がまるでめちゃくちゃなのです。私達の世界では、大体一月は30日前後、1年は12ヶ月の365日でしょう?でも、この暦では違う。60日で終る月もあれば、4日で終る月もあります。それぞれ赤月、青月、なんならベージュ月ってのもありましたね。」 

令「ありましたねってあんた‥」

幽「そう言ったわけで日にちもウサギの日、ヘビの日、みたいでとにかくめちゃくちゃ。それが1000日で、1年になるのです。当たり前ですが1日は24時間ですよ。あとは、例えば青月のサル日は朝お酒を飲んだら夜に良いことがある、みたいな、その日にするべき事みたいなのが書かれてあります。Aが言っていたのはこれですね。強制ではないですが。あ、そうそう。勿論各日にち毎に、現実の暦ではいつが当てはまるかも記載されていますよ。これが無かったら不便でしょうがないですものね。あとは、この内容は他人には秘密にしておくべき。とのことです。」

令「質問いいですかい?なんでそんな面倒なことしなきゃいけないんです?要は二つの暦をわざわざ使うってことでしょう?」

幽「そんなもの、面白さですよ。この暦では、他人と違った時空軸で生活できるのです。しかも毎日かかれているアドバイスは、その日によって全然違いますし、それをこなしていく面白さもあります。例えば、私達の週終わりは日曜日で、月曜日と聞いたら気分が暗くなりますが、この暦ではその月曜日という概念がありません。明日は良い日になるかもしれません。あとは、現実世界の約3年が1年なので、それだけ歳をとるのがゆっくりになる。まぁ気分の問題ですけどね」

令「俺には理解できそうにありませんや。あともう一つ聞きたいんですが、まぁそれは後で。話続けてください」

幽「そんな暦を手にいれて、最初は現実とのずれに苦労したものの、男はそのコツをつかみました。そうなると楽しいのなんの。まずは本当に同じ日がない。このアドバイスを実行したら明日は何が起こるんだろうっていう期待が産まれたのよ。例えば、朝食を食べずに外出したら幸運、という日には半信半疑ながらもその通りにしたら、ちょうど会社の同僚が大量のお菓子を作って持ってきて、それを食べることになったり、とかですね。」

令「ははぁ」

幽「良いことだけじゃなくて、悪い日っていう場合もあります。でもその場合は、それを防ぐ方法が書いてあるの。例えば、この日は災難を防ぐために書類のチェックを3回行え、ってみたいな、ですね。」

令「3回もチェックしたら、書類のミスは無くなるんじゃ?」

幽「勿論、気のせいかもしれません。でも、毎日なにかしらあるんですよ。法則性もなんにもない。面白くありませんか?」

幽「そんなわけで、男はこの魅力にはまって行きました。このアドバイスの指示に従った結果、女の子と知り合い、良い関係まで発展したんですよ」

令「そりゃめでたいことで」

幽「ただ、当然彼女も働いていまして、お互い休みが合致することは中々無いのです。しかも合致した日がアドバイスで家でじっとしているべき日だったりすると、うかつに出歩けませんしね。よく彼女から「まるでもう一つスケジュール帳があるみたいね」と言われていました。結局、それが原因で別れてしまったのですが。」

幽「さて、男は毎日をこのように過ごし、1年を終え次の1年の最初の日。この日は、ひたすら家に閉じ籠り、誰とも会わずひたすら祈る必要がありました。これから続く1年の幸福を。この儀式をやっていると、お昼近くに電話がなりました」

?「もしもし。ちゃんとやっているかい?儀式のことが気になってな。」

男「大丈夫だよ。ちゃんとやってる。きょうはその日だろ?」 

?「それを聞いて安心したよ」

男「俺の方こそ。そっちは会社勤めっていう立場もあるしな。じゃ」

令「ん?」

幽「電話は切れました。言うまでもありませんが、男の電話相手の声は男自身のものですよ」

令「な、なんですかいこのオチ‥意味がわかんないんですけど」

幽「詳しくは解説しませんよ。でも当たり前のことでしょう?だって暦がもう一つ存在するなら、その暦で生活する人間がもう一人必要じゃないですか。まぁオカルトっぽい解釈をするならこれが妥当ですけれど、実際、こういうべつの暦を作ってしまうと別のその暦に対応する人格が出来やすくなってしまったり、統合失調になりやすくなってしまうので、どのみち良いことではありませんね」

令「なんかはぐらかされてる感がぬぐえねえ‥あ、話終わりなら最後の質問」

幽「なんでしょう?」

令「あんた。その手帳の内容やけに詳しかったよな?っていうかまるで持ってるみたいに‥」

幽「これですか?私も持ってますよ」

令「げ。てことはもしかしてあんたも多重人格‥」

幽「違いますよ。私はほどほどで使うのを止めてしまったのです」 

令「そりゃなんで」

幽「だって、」

幽「こんなもの無くても、私達の毎日は未知と楽しさで溢れているではありませんか」

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