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短編1
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買い物メモ

伸樹さんが祖父から聞いたという話。

祖父の幼少時代は《飼い犬に必要なぶんのお金とメモ書きを持たせ、買い物に行かせる》という光景は茶飯事に見かけられた。

家は青果店を営んでおり、そのようにして時間を節約する家庭の得意先も二、三あったという。

ある雨の降る夕刻。

顔なじみの雑種犬がずぶぬれで買い物かご、お金、メモ書きを携えやってきた。

店番をさせられることもあった祖父が雨にぬれたメモを見ると。

《からだあたまあたまてあしあしあたまあたまててててあしあたまからだ》

といったような意味不明の文章が金釘文字で書かれていた。

祖父は、店主であった父にメモを見せる。

いぶかしげな顔をしながら、父は黙って売り物の野菜を買い物かごに詰め、お金はとらずに犬を帰した。

《あの家なあ、この間せがれが電車で轢かれて亡くなったんだよ》

と父は気の毒そうに語ったという。

母親の目前で、何を思ったか踏切をこえ線路内へ侵入してしまったのだそうだ。

その後、その家庭がどうなったかは判らない。

祖父は雨の日に近所を歩くと、あの異様なメモ書きの字を思い出すのだという。

Concrete
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