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新生活に訪れた者たちの話五題

中編3
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新生活に訪れた者たちの話五題

独り暮らしをはじめた彩花さんの自宅インターホンには、来訪客を録画できる機能がある。

ここ最近、夜の二時~三時頃にやってくる人物を確認した。

中年の、スーツ姿の男性。

奇妙なことに男性は、必ず画面の右上から上半身だけを突き出す形でまっすぐ横向きに映っている。

身体を斜めにしていたり、どこかに掴まったりしている訳でもない。

どこに足をつけているのか判らない状態でニコニコと笑っているそうだ。

まだ応答したことはないという。

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進学のために地方から上京した知良さんの話。

去年、部屋の大掃除をしていると、幼稚園に通っていたころの拙い絵や工作物が出てきた。

記憶からは消えていたが、たしかに自分の名が記されているものばかり。その中から

《十ねんごのじぶんへ》

という手紙をみつけた。

魚の形を模した便箋に、色鉛筆でカラフルに彩られた一行。

《ほんとうのママは○○やまにうめました 十ねんしたらほりだします》

○○の部分には国内に実在する山の名前が入る。ただし相当な遠方にあるため、行ったことはない。

知良さんの母上は健在であり、物心がついてから母親が代わった記憶もなければ、何かしらそれに関連するものを地面に埋めたりした記憶もないという。

便箋には、まるで詳細の判らない地図らしき山のイラストと、一点を示す矢印も一緒に描かれていた。

去年の時点で約束の十年はとうに過ぎており、そろそろ二十年になる。

《ほんとうのママ》はまだ知良さんとの約束を待っているかもしれない。

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裕子さんは会社勤めを辞め、現在はアルバイトをしている。

夜勤に向かうため、マンションの自室から出た。

敷地内から外に出るには、隣室の前を通る必要がある。

その隣室に用事があるのか、見知らぬ男が扉の前に居た。

正確には扉に、ヤモリがそうするように全身をつかってベッタリと張り付いていた。

慌ててきびすを返し自室へ戻ろうとする裕子さんに気づいたのか、男は隣室の扉から飛び退くように離れると、床に腹這いになりながら

《ペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタ》

と《自分の口で言いながら》近づいてきた。

間一髪で自室に逃げ込み扉に施錠し通報。

覗き穴から外のようすをうかがうと。

白い粒々の多い、ぬれた赤い肉のかたまりが目に入った。

男は頭だけを小刻みに動かし、覗き穴の箇所を舌でぺろぺろと舐めていたのだそうだ。

男はしばらく扉に張り付いていたが、警察が駆けつける前に姿を消したという。

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依子さんは入社した会社に、電車通勤をすることになった。

片道で四十分ほどを要するが、利用客の少ない時間帯に通勤できるため座席に座れることが多い。

ある日、携帯電話を操作中に気づいたこと。

覚えのない動画ファイルが保存されている。

日付は三日前。

十秒弱の短い動画が、三つ。

すべて、電車内の座席で居眠りをする依子さんを撮影したものであった。

それぞれ三種類の異なる角度、至近距離から三回撮られているのだが、ほかの乗客の有無は判らない。

当然パスワードによるロックもかかっており、起動には四桁の番号を入力する必要があった。撮影者はそれを知っているのだろう。

それだけ。

財布をとられた訳でも、それ以降ストーカー被害の兆しがある訳でもない。

動画は即、削除した。警察には届け出ていない。

現在も、同じ路線を利用している。

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武彦さんは引っ越しを業者の完全パックサービスで依頼し、自分では皿一枚梱包せずにすんだ。

新たな物件に運び込まれる家具の位置を指定していると、珍妙なものを持ってきた者が居た。

二人がかりで運搬されてきたそれは、五十センチほどの背丈の

《石地蔵》

であった。

それは何かと武彦さんが訊くと、押入れの天袋の中で横倒しになって仕舞ってあったという。

もちろん、そんな記憶はない。

武彦さんは前の住所に入居してから、天袋を開けたことすらないのだ。

武彦さんも業者も困り果てたが、高額な処分代をとられるのが厭で預かってしまった。

ゴミの日に出せるわけもなく、現在もベランダに放置してある。

どこかの寺社で引き取ってもらえないか交渉しているそうだが、どこも首を縦に振ってくれない。

真夜中、たまにぶつぶつと念仏を唱えているような低い声が聞こえる。

窓を開けるのが怖いという。

Concrete
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