春は私にとって、約束と別れの季節だ。あの日、桜の咲くあの丘で交わした約束。
三年前、彼女は
「三年後の今日、桜の咲くこの丘で一緒に首を吊って死のう」
と言った。
それから三年間、私は彼女との約束を果たすためだけに生きてきた。しかし約束の日、彼女は現れなかった。
この三年間の間に彼女の身に何かがあったのか。それとも約束を忘れてしまったのか。あるいは初めから約束を守る気などなかったのか。私には分からなかった。
共に死ぬ約束を交わした彼女を失った私はどうすれば良いのだろう。
一人で死ねば良いのか、それとも彼女を待ち続ければ良いのか。
そもそも、なぜ彼女は私に一緒に死のうと言ったのか。
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17歳になった日に、自分が産まれた街が一望できるこの丘で死のうと私が桜の木の枝に縄をくくりつけていると、彼女はいつのまにか私の隣にいて、何をしているのかと訊いてきた。私がこれから首を吊って死ぬつもりだと答えると
「私も死ぬよ、三年後に」
と返ってきた。
私が意味が分からず黙っていると
「ねえ、せっかくだから一緒に死のうよ」
と彼女は続けた。
無視をして首を吊っても良かったのだろうが、彼女の声は妙に心地よく、会話を終わらせてしまうのがもったいないような気がして、私は一言だけ、構わないと答えた。
すると
「じゃあ、三年後の今日、桜の咲くこの丘で一緒に首を吊って死のう」
私は耳を疑った。なぜ彼女は目の前でこれから死のうとしている人間に三年後に死のうなどと言うのか。
「どうせ死ぬんならさ、あと三年ぐらい生きてみようよ。それで、一緒に死のう」
彼女の声を聞いていると、私は三年くらいなら生きてみてもいいような気分になり、彼女と三年後に共に死ぬ約束をしたのだった。
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彼女が私にあと三年ぐらい生きてみろと言ったこと、三年後、自分は死ぬと言ったこと、約束の日に彼女が来なかったこと、それらは全て繋がっているのだろう。
思えば私は彼女の事を何も知らない。彼女の名前も、どこに住んでいるのかも。
彼女を探そう。何故あの日わたしの前に現れたのか、何故三年後に自分は死ぬと言ったのか、何故私にあと三年ぐらい生きてみろと言ったのか、彼女に会って全ての謎を解明しなければならない。
何年かかるか分からないが、必ず彼女を見つけ出し、全ての謎を解く。そうしたら、今度こそ共に死のう。
そして私は彼女を探す旅に出た。
作者白真 玲珠