長編10
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朝の占い

占いって信じますか?

中学は家から遠かったけど、高校は家からすぐ近く、徒歩5分のところにありました。朝、余裕ができました。テレビのニュースを長めに見るようになりました。

高校の入学式の朝、朝食後のテレビから

『今日最も運勢が良いのは、てんびん座のあなたです! 新しい恋の予感!窓を開けて外を眺めると、すごい経験ができるかも! ラッキーアイテムは、消しゴムで~す!』と、女性アナウンサーの明るい声が流れました。

「お母さん見て~。今日私、新しい恋だって~(笑」笑いながら母に言いました。

「恵、あんた時間大丈夫なの?」占いのことには一切触れず、母は私の遅刻を心配していました。

「大丈夫大丈夫(笑 でも、もう行くね! 行ってきま~す」そう言って家を出、初登校の道を歩き、事前に通知されていた「1年4組」の教室に入りました。席上には、自転車通学届や選択科目の希望調査表など、後に提出すべき書類があらかじめ置かれていました。ホームルームが始まるまでに記入しておくようにとのことで、何となく書き始めました。

そのとき、隣の席の男子から声をかけられました。「あのさ、ちょっと消しゴム借りていい?」

振り向くと「あ、かっこいいな」と思いました。イケメン過ぎず、自然な感じで普通以上にカッコイイ、そして優しそう、そんな男子でした。この男子は佐伯君という名前で、私とは別の中学から来た人でした。

LINEを交換したりして、佐伯君と楽しく話していると、ホームルームが始まりました。入学式の要領などについての説明でした。先生から最後に「トイレ等を済ませて、体育館に集合」と指示されました。

トイレに行く途中「恵ぃ~~」と後ろから声をかけられました。「あんた入学初日からやるねぇ~~(笑」中学から一緒の沙織でした。沙織とは、高校でも同じクラスでした。「朝教室来てみると、知らないイケメンと二人だけの世界作ってて、私恵に声かけれなかったわ~(笑。 で、あのイケメン誰よ?どこ中出身の人?」

「やめてよ、そんなんじゃないって」

「お!恋の予感かぁ~?(笑」

沙織のその言葉に、私はハッとしましたが「なわけないでしょ(笑」と沙織に言ってトイレに入りました。

トイレの個室の中で用を足しつつ『あの占い、他に何て言ってたかな・・・。あー、思い出せない』私は、スマホで朝見た番組のサイトを検索し、今日の占いコーナーを確認しました。

『消しゴムってとこも当たってる!ウソ、信じられない!こんなことあるんだ!!他には・・・窓を開けて外を見るとすごい経験・・・?どーゆーこと?』色々と考えていると

「恵ー!先行くよ~!」

「すぐ行くー!」私はトイレから出て、沙織と体育館に向かおうとしました。

トイレの前を通る廊下の窓から、30mくらい先に体育館の入り口が見えます。

体育館の入り口、鉄製の玄関ドアは閉められており、ドアの前では、二人の男性教師が生徒らに何やら大声で指示しているようでした。当惑した顔で様子を見ている者や、何だ何だと意味もなく盛り上がっている者など、多数の生徒らで体育館前は少し混乱気味でした。

「あれ、何だろ?」私は沙織に言いました。

「さぁ・・?入学式あるのにね・・?」沙織も、窓の外を怪訝そうに見ました。

私は窓を大きく開けました。すると「生徒は早く教室に戻ってーー!!!危ないからーー!!」という男性教師の怒声が聞こえてきました。

そのとき、バン!!!と凄まじい爆発音がして、体育館のドアは粉砕されて吹っ飛び、炎が噴き出しました。前に立っていた二人の教師は弾き飛ばされ、ドアの破片が付近の生徒らを襲いました。ヒュッという音とともに、ICカードサイズの破片が、沙織の耳のすぐ横を掠め、背後の壁に深く突き刺さりました。

教師一名は即死、もう一名の教師も重体で、破片の直撃を受けた生徒らにも死傷者をだす大惨事でした。しばらく、学校は休校になりました。

テレビのニュースによれば、学校の近所に住む30代男性の犯行でした。

その日、私たちのホームルームが終わった直後頃、その男は「俺の運命の相手がこの学校にいる。今すぐ結婚したい」などど言って体育館に侵入し、入学式の最終準備中だった教師らに向かって、爆発物らしきものを掲げて威嚇したとのことです。教師らはすぐに体育館から出て扉を閉鎖し、警察に連絡したそうです。爆発は、警察が体育館に到着する寸前の出来事でした。

「今日マジでヤバかったね!私の耳、横がちょっと切れた。ヒリヒリする(悲」沙織からのLINEです。

「あの時、恵が窓開けてなかったら、ガラスが割れてもっとすごいケガしてたかも!!」

偶然が重なっただけと思いたかったのですが、占いと異様に符合しており、私はうっすら恐怖を感じていました。『確かにすごい経験だけど・・・でもそういう意味?いや、占いがとか、普通に考えてありえない。でも占いのとおり窓開けてなかったら、逆にどうなってたか・・・』

それから数日、気になって占いコーナーを見ました。ただ、占と一致するような出来事はなく『あれは気のせい。考えすぎ』そう納得しかけていた日のことです。

その日は土曜日でした。『さぁ週末の占いです!今日最も運勢が良いのは、てんびん座のあなた! 諦めていた探し物が見つかる日! 嬉しい臨時収入も期待できるかも!! ラッキーアイテムは、お寿司で~す!』と、女性アナウンサーの明るい声が流れました。

「恵~ ちょっと来て~」母に呼ばれました。母は、庭に設置している物置の整理をしていました。行ってみると「ちょっとこの段ボール重いから、手伝ってちょうだい。お母さん、腰痛いわぁ」と言われました。

「は~い。そっち持った?いい?せ~のっ」と母と段ボールを持ち上げ、物置から出しました。母は、段ボールの中をごそごそ片付け始めました。

私はふと、物置の中に目をやりました。

奥の隙間に、小学校の卒業アルバムがありました。

私の家は、3年前、私が中学1年の秋に新築したもので、その引越しの際のドタバタで小卒アルバムを紛失していたのです。当時私はさんざん泣いて探し、見つからなくて更に泣き、見かねた親が小学校に頭を下げてお金も払い、保管されていた予備のアルバムを譲ってもらったのです。

アルバムを手に取り、最後の頁を開くと、当時の寄せ書きもありました。私がなくしたアルバムに間違いありませんでした。ぞっとしました。

この物置が設置されたのは、去年なのです。そして中には、私の物なんて一つも入れたことはありません。母の家庭菜園の道具を保管する物置なのです。

「・・・ねえ、お母さん。これ・・・ここにあった。」

「あ~。あんた泣きながら探してたね~。・・・・でも、何でこんなとこにあるん?」

「分かんない!いや、絶対おかしいよ!!どう考えても絶っ対あり得ない!!!」私は半泣きになってリビングに戻り、沙織に相談しようか考えていました。

「アルバム見つかって良かったじゃない。なくしたものなんて、意外なところから出てくるのが普通よ」庭から戻った母が言います。

「だって、あんなところって、おかしくない?!」

そんな話をしていると、父がゴルフの打ちっぱなしから帰ってきました。

「ただいま~。母さん、前、ステーキ屋があったとこ、回転ずし屋になってたぞ。今日オープンみたいだから、昼はそこに行ってみようや」

「そうねぇ~。最近お寿司食べてないし」

「開店日で混むかもしれないから、早めに出よう。11時には出ようか」

「寿司っ?! いや。私はいい。今日は家でラーメンでも食べとく」

私は、自分の運命が操られているかのような恐怖を感じ「ラッキーアイテム」の寿司から離れようとしました。

「恵!あんた、いい加減にしないさいよ。それにお寿司好きだったでしょ。一緒に行くの! 11時には出れるように準備しなさい!」

母親に押し切られ、回転ずしに行きました。最初は、店に入るのにも抵抗を感じましたが、いざ好きなネタを注文して食べ始めると、占いのことは次第に頭から離れていきました。

その日の深夜です。私は異様な腹痛で眠れなくなりました。刺すような痛みがひどく、立ち上がれないほどでした。両親は救急車を呼び、私はそのまま入院しました。

アニサキスでした。翌日、父が回転ずし屋に電話したところ、店舗責任者と名乗る人と、渉外担当という人の二名が、私のお見舞いに来ました。

「娘様の治療費は、うちで全額お支払いさせて頂いたうえで、誠意を形にいたします」といったことを、その二人は私と父に言っていました。

退院すると「はい。無駄遣いするんじゃないよ!」と言って、母がいきなり5万円をくれました。高1の私にとっては大金です。

「えっ!!!」私はとても驚きました。『初めての入院に耐えて頑張ったからかな?』なんて思いながら、素直に大喜びしました。

母は「残りは、あんたが大学行くときのために貯金しとくからね」と言いました。

「え?残りって?」そうです。この5万円は、すし屋からの見舞金の一部だったのです。

背筋に、冷たいものが走りました。『そういうことか・・・。嬉しい臨時収入・・・。』

私はこれまでの経緯から『最も良い運勢』のときだけ占いと符合することが起こる、という法則を感じました。今まで、占い結果が3位とか、どちらかと言えば悪い方の9位とかでも、占いと出来事の符合はありませんでした。

入院中の占い結果も調べました。入院中は、一度も『最も良い運勢』にあたってなかったのです。

それから私は、占いを見たくないけど見ずにいられない、という変な精神状態でした。学校が再開され、私の高校生活が始まり、数日が過ぎました。

隣の席の佐伯君は、すごくフレンドリーな感じで、私は彼のことがちょっと好きになっていました。

「次の土曜日、どっか行かない?」昼休みに、佐伯君から言われました。週末に、佐伯君と近くのショッパーズモールにいくことになりました。後で、沙織に報告しました。沙織は、私への応援なのか何なのか分からない話をひとしきりした後で

「そう言えば、そこの占い屋さん、すごい当たるらしいよ。お姉ちゃんが見てもらって、何か的中したって言ってた!佐伯君との将来を占ってもらったら?(笑」と言いました。

土曜日、朝のテレビの占いは『最も良い運勢』ではありませんでした。安心して家を出て、待ち合わせ場所で佐伯君と合流しました。

佐伯君とモールの中を歩いていると「占い」と書かれた暖簾が下がっているスペースがありました。広さは6畳くらいでしょうか?空きスペースをパーテーションで囲ったようなものでした。立て看板には「西洋占術 ¥1000(税込)」とありました。たぶん、沙織が言っていた「すごい当たる占い」です。

佐伯君は、興味深そうに見ていました。

「ちょっと入ってみない?俺、実はこういうの好きなんだよね(笑」

私は『占いは勘弁してほしいなぁ』が本音でしたが『雰囲気悪くするかもだし、占いとか好きって言った方が、女子らしくて印象良いかなぁ』などと要らない勘定をしてしまい、

「面白そう!!入ってみよっか!!」と佐伯君に答えてしまいました。

佐伯君と暖簾をくぐって中に入ると、テーブルを挟んだ向こうに、男性がこちら向きに座っていました。サングラスをかけたうさん臭そうなおじさんが、占い師でした。

「あ、どうぞ座って。二人で1000円でいいからね~」。テーブルの前には、パイプ椅子がちょうど2脚置かれていました。私たちは、言われるままイスに座りました。

占い師は、サングラス越しの眼でジロジロ私をみると、何とも言えないような驚いたような顔をし「あ・・・のぉ~。えっと~。何か最近、変わったこととかない?」と、いきなり私に言いました。私はあまりその占い師に好感が持てず「いえ、特には」とやや突き放したように答えたと思います。

占い師は「いや~・・・何か、相当な力、感じるけどねぇ~」などと言いながら、睨むように私を見ていました。佐伯君が「やっぱ、出よっか?」と私に言ったときです。

「ま、ま、ちょっと待って!タダでいいから」と占い師は言い、私たちを引き留めました。

「お嬢さん、もしかしたら・・・取り憑かれてるかもしれないねぇ~」と占い師が言葉を続けたときです。

誰もいないはずの私の後ろから「チッ」という舌打ちが響き、男性の声で「スカァッセ」と聞こえました。意味は分かりませんが、強い不満を感じているような険のある声でした。私は驚いて、すぐに振り返りましたが、誰もいません。

『え?何?何?』と混乱しつつ、占い師や佐伯君の方へ顔を向けたとき、

「あふトォショ ティ〇▽◆□×〇!!」と、また男性の声が聞こえました。明らかに怒りを含んだ声でしたが、全く意味が分からない外国語のような言葉で、途中から全然聞き取れませんでした。

そのときです。占い師が「ぐぐぐ・・」と歯を食いしばりながら顔を真っ赤にして呻くと、いきなり占い師の首が真後ろへ180度回転しました。割り箸を何本かまとめてへし折ったような音が響き、占い師は倒れました。

「きゃあああああ!!!何?!何何何?!」私は絶叫しました。

次は佐伯君でした。同じように呻きだし、首を傾げるような仕草をしたかと思うと、佐伯君の首も同じように180度回転しました。また折れる音が響き、私は再び絶叫して失神しました。

目が覚めると、病院でした。二人は即死だったそうです。退院後、警察から相当にしつこく事情を訊かれましたが、私は容疑者にはなりませんでした。

防犯カメラには、二人の首がひとりでに後ろへ回り、私は恐怖して絶叫し、失神する様子が克明に記録されていたのです。

それからは、占いで『最も良い運勢』に当たっても、何も起きなくなりました。本当にほっとしています。あの占い師が言ったように、私は本当に何かに取り憑かれていたのかもしれません。人の運命をある程度自由にできる、強大な力を持った何かにです。

私が聞いた「スカァッセ」について、大学院生である沙織のお姉さんが調べてくれました。外国語だとすれば、「黙れ」という意味のギリシャ語「Σκάσε」が発音的に近いんじゃないかとのことでした。

私は、それに間違いないだろうと感じています。それは私に、取り憑いていることを悟られないまま、私をどうにかしようと思っていた。でも、占い師が余計なことを言ったから腹を立てて殺し、そして一部始終を見ていた佐伯君も殺したんです。私が殺されていない理由は分かりませんが、そんな気がして仕方がないのです。

Concrete
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