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中編6
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自殺の名所

4月のある日、M県にあるL岬に行くことになった。L岬はその下に流れる海流が早く、落ちたら絶対に死体が上がらないと言われており、近辺でも有名な自殺の名所だった。

なんで俺がそんな物騒なところに、友人カップルと行くことになったのかというと、そもそもは、先日、AとAの恋人のB子、そして友人のC、俺と4人で飲んでいた時に、俺が話した怪談がきっかけだった。その怪談は、L岬に特に関係しているものではなかったのだが、その話を皮切りに怪談話が始まり、Cが「そういえば」とL岬の話をしだしたのだった。L岬はここからもそう遠くない、みんなも酔っていて、面白そうだということで、結果、今度の土曜の夜に行ってみよう、ということになってしまったのだ。

しかし、実際、L岬の話を持ち出したCは都合が悪いからと来ず、結局、俺がカップル二人を後ろに乗せて何故か運転手としてL岬に行くことになった。

そんなに遠くないとはいえ、L岬までは車でなんだかんだで1時間半はかかるし、何故に俺がカップルの運転手をしなければいけないのだという怒りもあったが、話の流れ上、断るに断れなくなったという次第だった。

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約束の土曜日、出発は午後7時。俺たちは3人でファミレスで夕食をとり、近くのコンビニで飲み物やらお菓子やらを買い込み、ちょっとしたピクニック気分でL岬を目指したのだった。

L岬の突端まで行くには、岬近くの車道から10分ほど歩く必要がある。まあ、これだけ道路から離れており、人目につきにくく、かつ、行きにく過ぎもしないところが自殺の名所たる所以なのかもしれない。俺たちは、岬の突端へと続く道近くに車を止め、懐中電灯を携えて岬の突端を目指した。当然、突端への道には県が作成したバリケードがついており、「関係者以外立入禁止」となっているが、構わず侵入する。

道は特に整備されておらず獣道のようなものだった。電灯もないために、夜歩くには懐中電灯が必須だった。

車に乗っているときには少し楽しいかなとは思っていたが、ここにきて、俺は来たことに後悔し始めていた。

歩くこと約10分、若干顎がで始めた頃に視界がひらけ、夜の墨を流したような海が眼下に広がった。岬の突端についたのだ。岬の突端は、左右10メートルくらいはあっただろうか、意外と広かった。落下防止が自殺防止かのために、一応柵が設けられているが、見晴らしは良かった。遥か下からザザーン、ザザーンと波の音が聞こえる。確かに落ちたら命はないし、あの波の荒れようからみても死体が上がらないというのもあながち嘘ではないようだ。

俺がおっかなびっくりして柵に近づこうとしないでいる中、AとB子は柵越しに下を覗き見ている。そして俺にスマホで記念写真を撮って欲しいと言ってきたのだった。

再び、「何故俺がこんなところでカップルの記念写真を撮らねばならないんだ」という思いがこみあげてきたが、そこは彼女がいないことを僻んでいると思われたくもないので、ぐっとこらえ、彼らのスマホで1枚ずつ、俺のスマホでも念のため(何の念だか知らんが)一枚撮った。

まあ、写真を撮ったらこんなところ、特に他に見るものもない。俺は柵を手で揺すったりして造作を確かめたりしていたがすぐに飽きてしまった。

そんな時、急にB子が小さな悲鳴を上げた。どうしたどうしたとAが駆け寄るが、B子は辺りをキョロキョロ見回し挙動がおかしいものの何も言わない。それで、早く帰ろうと突然言い出した。

なんだろう?トイレか?と思い、俺たちは早々にその場を引き上げることにした。帰りの車の中、ひとりだけ機嫌よくビールを飲んでいるAとは裏腹に若干B子が沈みがちなのが気になったが、それ以外特に何がある訳ではなかった。

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数日後、この時のことも忘れかけていたある日、夜11時にもなろうかという時にAから電話があった。

「どうした?こんな夜中に?」

「B子が急に家を出て行ったんだ!」

「?どういうことだ?」

Aによれば、その日、Aの家に来ていたB子だったが、ついさっき、一緒にテレビを見ている時に、急に「行かなきゃ」と言いだし、止めるAに構わず出て行ってしまったとのことだった。その時の様子がおかしくて、どうしていいかわからずに俺に電話してきたということだった。

「お前何かB子を怒らせたんじゃねえの?」

「いや、そんなことない。本当に突然だったんだ。突然、行かなきゃ、って言い出して、目が虚で、そのまま裸足で出て行ったんだよ」

確かにおかしい。はっきり言って、俺に電話している場合じゃないだろう?

「とにかく追いかけろ!」

俺は電話口で叫び、携帯電話と財布を引っ掴んで車でAの家に向かった。Aの家に着くとすぐにAは見つかった。B子を探してか、オロオロと家の前で右往左往していたのだ。

「どうしたんだ?」と俺が声をかけると、Aは

「B子はもしかしたらL岬に行ったのかもしれない」と言う。

俺はびっくりして尋ね返した。

「どうしてB子がこんな時間に一人でL岬に行くんだよ。しかもどうやって!?」

「B子はあの時、L岬で見たんだって言うんだ。」

「何を?」

「あの突端で、俺とお前が話していた時あるだろう?あの時、B子が突端に目をやると白いぼんやりとした影みたいなのが見えたんだって言うんだ。そして、その影が突然ふらりと揺れて下に落ちたんだって。まるで自殺者のように。」

それで、あの時、B子は悲鳴を上げたのか?

「見間違いだと思ったらしいが、どうにも気味が悪かったから早く帰ろうって言ったんだって。この話を聞いたのが昨日だったんだ。」

なるほど、怖かったのか、正気を疑われるのが嫌だったのかしたのか、話せたのがやっと昨日だったというわけか。

「その時も、B子は怯えていた。『もしかしたら私も引き込まれるかも』って。だから、昨日は帰さないで俺の家に泊めたんだ。それで、今朝は普通に戻っていたのに、さっき、急にテレビを見ていてふらりと立ち上がって、行かなきゃ・・・って言って、出て行ったんだよ」

異常な話だった。B子はL岬で何かに取り憑かれて、フラフラと岬に引き寄せられているとでもいうのだろうか?

「とにかく、もう、L岬しか心当たりがないのなら、行ってみよう。」

俺はAを助手席に乗せて車を走らせた。

「なあ、B子は携帯かなんか持っていないのか?」

「それは何度か試しているが、出ない。」

結局、1時間以上もの間、特にいいアイデアが出るわけでもなく、L岬の入り口に到達した。俺たちは、携帯のライトを頼りにL岬突端を目指した。

しかし、そこにはただ真っ暗な海が広がるだけで、B子がいる訳もなかった。

結局、B子はその日から姿を消してしまった。

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この騒動があってしばらくのち、ふと、俺はあの最初にL岬に行った時に撮った写真を見て、目を見開いた。

そこには、突端を背景に肩を組むAとB子が写っていたが、その他に、AとB子背後に引き込もうとするような無数の手も写っていたのだ。

俺は慌てて、Aに電話した。Aの携帯にある写真も確認させたが、そこには特に何も写っていないという。

俺の携帯にだけ?

俺は、携帯を耳から離し、しばらく見つめた。とてつもなく不気味なものを内部に秘めているような気がしてしまったのだ。

そのとき、まだ切れていない、Aとの電話口から、ポツリと聞こえた気がした。

「行かなくちゃ・・・」

電話はそこで途切れた。

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