ママ友の話。
家族でお出かけした帰り道。
海沿いの一本道を車で走っていた。
御主人の運転でママは助手席、二人の子供が後部座席で眠っていた。
夜遅く、他に車はいなかった。
小さな踏切を過ぎたあとだった。
何気なくバックミラーに眼をやった。そしてそこに在るはずのないものをみたママは、叫びそうになるのを必死で堪えた。
後部座席を振り返る。
異変に気づくことなく、2人の子供たちは
寝息をたてていた。
もう一度、バックミラーをみた。
バックミラーには車内にいるはずのない女の顔があった。
もはやバックミラーはその役割を果たしていなかった。
細長いミラーには女の顔の中心部が映っている。切れ長の目と鼻だけなのに、女の全体像が浮かんでくるような強い存在感があった。ずっと見ていると引き込まれてしまいそうな…
「J子! おい」
御主人に名を呼ばれて、ママ友はハッと我に返った。
「大丈夫か?」
夫の問いに応えようとしたが、声が出ない。
バックミラーから眼が離せない。
女から眼が離せない。
バックミラーは運転している人に対し、後ろがよく見えるように向きを調整してあるが、ママには女がバックミラーごとこちらに向き直り、迫っているように感じた。
女が自分を見ている。ママはそう感じたそうだ。そして自分も眼をそらせない。
捕まった。
そう思った瞬間、御主人の手が伸びてきてママの視線を遮った。
「見るな!」
御主人の力強い言葉に、ママは涙が出たそうだ。
そのあとはずっと俯いたまま心の中で、早く消えてくれと念じてたそう。しばらくして耳元で
「チッ」
と舌を鳴らす女の声が聞こえたような気がした。そして、御主人の
「もう大丈夫」
と言う声に恐る恐る顔をあげ、バックミラーを見た。
女はいなかった。
御主人から聞いたところによると、女は踏み切りを過ぎる前からいたという。
ママはそのあと家に着くまで震えが止まらなかったそうだ。
作者國丸
これは主人の転勤で、東北に住んでいた時のママ友の話。ブログに載せているのを修正したものです。
実話です。