主人の転勤で東北にいたときの話。
娘が幼稚園に入る前の年の夏。
夕刻。夏の空はまだ高く明るかった。
いつものように買い物を終え、社宅へ戻る車中でのこと。坂を下っている時に娘が言った。
「おまつりだー。いっぱいひとがいるね。◯◯(娘の名前)もいくー」
娘が言った。
「はあ?」
何台かの対向車が過ぎ行き、後続車もいる。だが、歩道には誰もいない。
「人ねぇ…」
いないんだけど…
そう思いながら、周りを見てハッとした。
ゆるい下り坂は、先でゆるいカーブになっている。そのカーブの向こう側に雛壇になったお墓があった。
引っ越してきてから何度となく通った道。でも私は今までここにお墓があるのは気がつかなかった。
殆どの墓に花がお供えしてあるのが見える。
でも人は誰もいない。
ちょうどお盆の時期だった。
「誰もいないよ」
私は言った。
「いっぱいいるよ。たのしいんだよ」
娘は笑っている。
私には視えない、その人たちを見つめる娘の瞳は輝いている。
これは視てはいけない人たちではないのだろう。
「そっかー。楽しそうなんだ。お家に帰れるから嬉しいんだね」
そう言いながら、ひと気のない墓場を横目に、私はゆるいカーブを曲がって家路を急いだ。
作者國丸
主人の転勤で5年ほど、東北に住んでいた。
その5年の間には、今回のような小さな心霊体験が幾つもあった。
有名な霊山の麓に住んでいたからか…?