中編3
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ペット

前代未聞の裁判があった。原告の訴えは「私の可愛い命の次に大切なペットを殺した償いをしろ」というもの。例えば、他の人の犬や猫を殺害または傷害したなら賠償責任が伴うことは皆さんも理解できるはず。しかし、そのペットというものが少々特殊であったのだ。

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事の起こりはこうだ。原告主催のホームパーティーに参加した被告はその家でゴキブリを見た。反射的に被告は近くにあったティッシュ箱でゴキブリを叩き潰した。そしたらどっこい原告が飛んできて大泣きしたではないか!

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被告はポカーンとしていた。「なんてことをするんだ!君は!」と原告が叫ぶ。

「いや、あのゴキブリが出たので殺した方がいいと思いまして」と言いながら、周りにいた他の人に同意の眼差しを送った。しかし、またまた驚いた。一人が「彼の大切なペットを殺してしまうなんて酷いよ」と言ったのだ。

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また周りを見ると皆、自分を責めるような目をしていた。場の中で一人も自分の味方はいないのだ。

原告は潰れたゴキブリのそばに行き、「黒ちゃん。かわいそうに、なんて変わり果てた姿になってしまったんだ。仇は必ず取るからね」と言ったあと。まるで自分の子が殺されたときの親のような形相で被告を睨みつけた。

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被告は「すみませんでした」と一応言ったが、原告は許そうとしない。そして裁判まで及んだのである。犬や猫ならペットとしての権利はあるが、はたしてゴキブリはどうなのか?被告の弁護人はまず「被害に遭われたとされる黒ちゃんですが、本当に黒ちゃんだという証拠はあるのですか?もしかしたら他のゴキブリかも知れないのでは?」と攻めた。

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原告弁護人「はい、ございます。こちらの写真をご覧ください。」と写真をホワイトボードに貼り付けた。潰されたゴキブリの遺体に小さなベルがあった。そして続けて「このベルが後付けではない証拠として映像資料をご覧ください」とビデオを見せた。

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そこには原告とゴキブリの黒ちゃんが仲良く遊んでいる様子が映し出された。確かにベルが付いていた。証人も揃っている例のパーティのメンバーたちだ。

犬や猫には人間が持つ人権のように強力な権利はないがペットという位置づけなら飼い主の所有物として権利が発生する。本当にゴキブリがペットとして認められるのであろうか?

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後は裁判長の判断に委ねられることとなった。判決は被告の有罪。理由は何日にもわたり飼い主である原告と黒ちゃんが過ごした様子が物的証拠として残っていたこと。ちゃんと飼い主とペットという関係にあったことが証明されていた。そのような点から被告は有罪で罰金を受けることになった。

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なぜこの面白い裁判が公表されなかったのか?それは悪用する人が増える恐れがあるからだ。例えば家に来た友達がその家の中でアリを踏んだとする。するとその家の子が「僕のアリのよっちゃんを踏んで殺したな!」などと騒ぐ、駆けつけた親がゴキブリの例を知っていたなら裁判を起こす可能性だってある。裁判に関係した原告とその証人以外の人は、はっきり言ってしょうもない理由で裁判するなと思っていた。

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裏話)あのパーティーは作為的に開かれた。あらかじめ原告は被告以外のメンバーに作戦を伝えていた。上手いこと被告を加害者に仕立て上げられたなら大金が手に入る。それをみんなで山分けしようと考えていたのだ。

Concrete
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