とある田舎に住む高校生の話。
彼は自分の産まれ育ったこの田舎が大嫌いだった。
「あるものなんて、寂れた商店と、死にかけの老人と、どこまでも広がる田んぼと畑、それを荒らす野生動物くらいだ」
そう言って、いつもふるさとを馬鹿にしていた。
高校卒業後は「都会へ出て、こんな田舎とおさらばしてやるんだ」と強く心に決めていた。
そんなことを考えながら自転車を走らせる高校からの帰り道。
気づくと、彼の目の前に木の枝が転がっていた。
とっさにハンドルを切ったものの、考え事をしていたために避けきれず、その木の枝を踏みつけてしまった。
その瞬間、「グニャ」っと、自転車ごしに嫌な感触が・・・・・・
木の枝だと思っていたソレは、ヘビだった。
アスファルトの上で日向ぼっこでもしていたであろうそのヘビを、自転車のタイヤで思いきり轢いてしまったのだ。
振り向くと、ヘビは大量の体液を噴き出し、活きの良いミミズのようにのたうちまわっていた。
しかし、すぐに勢いは弱まり、いつしかピクリとも動かなくなった。
「死んじゃったかな?」
「ヘビは執念深い」「ヘビを殺すと不吉なことが起こる」といった言い伝えが昔からあることくらい、高校生の彼でも知っていた。
さすがに「マズいな」と思ったが、かといってどうすることもできず、結局そのまま死骸を放置して家に帰った。
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ある日、彼は親父から頼まれ事をされた。
ここは田舎だ。
家屋や農作物に危害を及ぼすネズミが、そこらじゅうにウヨウヨいる。
そうしたネズミたちを捕獲するため、あちこちに罠が仕掛けてある。
父の頼みとは、それを全てチェックして、罠にかかったネズミを処分しておいてくれとのことだった。
彼は気が進まなかったが、することもなく退屈していたので、仕方なく引き受けることにした。
ネズミがかかっていた罠は十数個。
それを庭の片隅に一ヶ所に集めたあと、溺死させるために大きなタライに水をためた。
そのタライに罠ごとネズミを沈めようと、罠をひとつ手にすると・・・・・・
その途端、妙な感覚が彼を襲った。
「うまそうだな、このネズミ・・・・・・」
彼は思わず自分自身が発した言葉に驚いた。
しかし、やはり彼にはネズミがうまそうに思えて仕方がなかった。
彼は周りに人がいないことを確認してから、罠のフタを開け、腕を突っ込むと、抵抗されるのも構わず鷲掴みにした。
そして、得体の知れない衝動に駆られるがままに、生きたままのネズミに、頭から勢いよくかじりついた。
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バリッ・・・ゴリゴリ・・・
ジュルジュル・・・モグモグ・・・
首から上の頭部を無理矢理食いちぎると、目玉も脳ミソも奥歯で骨ごと噛み砕いた。
一口飲み下して、彼は驚嘆した。
「知らなかった!ネズミがこんなにうまいなんて・・・・・・」
あまりの美味さに感動すら覚えた彼は、頭部を失い痙攣しているネズミの胴体に容赦なく喰らいつき、夢中になってむさぼり食った。
そして、あっというまに丸々一匹を食べ切ってしまったのだ。
すでに、彼の理性はどこかへ吹き飛んでしまっていた。
口も手も真っ赤な血にまみれたまま、躊躇することなくふたつ目の罠に手を伸ばすと、荒々しくネズミを捕まえ、夢中でむしゃぶりついた。
二匹目を食べ終えたとき、彼は思った。
「ネズミは美味いなんてもんじゃない。むしろ、何かを食べて、これほどうまいと感じたことは生まれて初めてだ」 と。
それからも彼は得体の知れない衝動に駆られながら、理性を失ったケダモノのように3匹・・・4匹・・・と、生きたネズミを次々にむさぼり食った。
気づくと、そこにいた十数匹のネズミを、全て平らげてしまっていた。
最後の方は両腕で絞め上げて弱らせたネズミを、ほとんど丸呑みしていた。
生きた獲物が、窮屈な喉元を通りすぎていく感覚に、快感すら覚えた。
獲物を絞め上げて丸呑みにするその姿はまるで、ヘビのようであった・・・・・・。
彼はそれから毎日、罠をチェックしては、人目を盗んでネズミを生きたまま貪り食った。
そしてある日、彼は決心した。
「この土地を離れてしまっては、好きなだけネズミを食えなくなってしまう。ネズミを食い続けるには農家を継ぐのが一番いいかもな・・・」
そして、彼は父親に告げた。
「親父、オレ、農家継ぐわ」
すっかり都会に出ていくと思っていた父は、息子からの思いもよらない言葉に手放しで喜んだ。
そうなると、彼にはひとつだけ、気掛かりなことがあった。
農家はたいてい、農作物や納屋を荒らすネズミを退治するために、ネコを飼っている。
「奴らに活躍されてはオレの分け前が減る」
彼は手始めに、自宅の飼いネコを処分することにした。
飼いネコがいつも昼寝をしている納屋に向かうと、躊躇うことなく寝ていたネコの首を両腕で力の限り絞め上げ、息の根を止めた。
ぐったりと横たわるネコの死骸を見て、彼はふと思った。
「ネコは美味いのか?」
彼は再び得体の知れない衝動に駆られるがまま、ネコに喰らいつき、またもや狂喜することとなった。
「ネズミとは違う美味さがある!もっと・・・もっと食べたい・・・・・・」
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今の彼にとってはもう、田舎は忌み嫌う場所ではなくなっていた。
むしろ、野生動物の命を育む大自然に囲まれたこの故郷が、楽園にすら思えてきていた。
次なる獲物を求め、縦に長くのびる鋭い瞳を見開き、ヘビのように裂けた舌を舐めずりまわす彼。
体の内側から沸き上がる得体の知れない衝動を抑えられず、いつしか「人ならざるもの」へと変貌を遂げてしまった彼が、次なるターゲットとして狙いをつけたのは鶏や豚などの家畜だった。
そんな彼が人肉を求め、人間を襲うようになり、小さな田舎町を恐怖で震いあがらせるようにるまでには、そう時間はかからなかった。
・・・
・・
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作者とっつ
友達の体験談をヒントにして書いたものです。
ホラーテラーに過去に投稿したものなので、すでにコピペがこのサイトにあるかもしれないですが、今回の投稿に際して多少加筆しています。
グロいです。ごめんなさい。