短編2
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停留所

路線バスの固いシートに腰かけ、ぼくは不安で胸が張り裂けそうになっていた。

一人でバスに乗るのは初めてだった。

降りるべき停留所の名は、母から聞かされている。

でも、それがなんという名前だったか、どうしても思い出せないでいた。

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――次は、サンショウジマ、サンショウジマ。

アナウンスが流れる。

違う、こんな名前じゃない。

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落ち着かない視線を窓の外へ向けながら、胃がきゅっと縮まるのを覚えた。

見たことのない景色が、どんどん流れ過ぎてゆく。

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――次は、ショウヅカ、ショウヅカ。

お降りのさいは、お手近の押しボタンでお知らせください。

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この名前も違う。

母からは五つ先だと聞かされていたのに、もう十カ所くらい停留所を通り過ぎている。

泣き出したい気持ちをぐっとこらえ、まわりの大人たちを見上げた。

しかし誰一人として、困っているぼくに注意を向けてくれる者はいなかった。

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――次は、フラクホンザ、フラクホンザ。

もしかしたら自分は、もう二度と家には帰れないのかもしれない。

そう思いかけたとき、バスの行く手に大きな川が横たわっているのが見えた。

橋もある。

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――次は、シガン、シガン。

やはり聞き覚えのない停留所だった。

でも、なぜだか胸騒ぎがする。

ここで降りなければ……。

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あわてて降車ボタンを押した。

オレンジ色のランプが点灯する。

エアブレーキの音がして、バスがゆっくりと路肩へ停車した。

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開いたドアの先にひろがる美しい景色に目を奪われた。

なんだか懐かしい感じがして、涙がこみ上げてくる。

ぼくは意を決し、ステップへ一歩足をかけた……。

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…………。

気がつくと、目の前に両親の顔があった。

母は、泣きながらぼくの名を呼んでいた。

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子供のころジャングルジムから転落して、病院へ運ばれたときの記憶です。

Concrete
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