長編8
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なな曲がり

   

   

   

これは友人のお話。

  

  

  

高校生の頃に友人A子に起こっていた事である。

  

  

よく学校帰りに仲の良い友人数人で連れ立ってカフェに行っていた。

メンバーは日によって少し変わる。

3人だったり 5人だったりする。

しかしA子にはこの顔ぶれの時にだけ話す事、というのがあった。

あまり公に話すのも戸惑いがあるらしく、私ともう一人のB子と3人の時だけに

話してくれていた。

  

  

A子の摩訶不思議なお話である。

 

 

 

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始まりは 高校1年生の夏休みだった。

A子は家族で、庭で西瓜をたべながら花火をしていた。

母親、姉、A子の3人でキャッキャッと楽しんでいると、急に姉が空を指さし

 「 あれなに!?」

  

母親と一緒に姉の指さす方を見上げる。

良く形の分からない光っている物が、空の高い位置でランダムに動き回っている。

誰でも飛行機かな、ヘリコプターか 何かの衛星? と思うものだろう。

ところがそれは、クルクル円を描いたり四角や三角といったように

A子達から見たら 狂った様に動き回っていた のだそうだ。

母親、姉、A子の3人は茫然とそれを見上げて暫く固まっていたそうだ。

  

20分ほどしてそれは消えてしまったらしい。

 「 あれって・・・UFO・・・? 」

 

当然のことながらそんな会話になった。

  

  

しかしその日を境に、その奇妙な動く光を見た家族におかしな事が起こり始めた。

  

  

  

あくる日から 連日続く金縛り。

それは日に日にエスカレートしていった。

  

  

ある日A子は朝食の席に着き、母と姉に金縛りの話をしてみた。

すると母も姉も同じように連日の金縛りに悩まされていることを知った。

特に母親と同じ現象を目にしている事にも気が付いたそうだ。

 

金縛りになり始めた1,2日くらいは耳鳴り程度だったものが

だんだんとエスカレートして行く。

女性がベッドの脇に立って自分をのぞき込んでいたり

大勢の血まみれの落ち武者に囲まれていたり

またそれは大勢の狸や動物であったりした。

そして今では

足元から女性が這い上がって来たり

天井から逆さ吊りの状態で降りてきた女性に首を絞められたり

この時は母親も首を絞められたと翌朝に騒いでいたらしい。

以前と違う事は、見えるだけでなく自分に 触 れ て 来る様になった事。

 

しばらく毎日のように怪異が起こっていたのだそうだ。

それから1年たった今でも変わらずそれは起こっているという事。

ただ、寝ている際の金縛りは毎日起こる事はなくなったのだが・・・・

今度は 学校でも 街の中でも 遭遇するようになった。

A子にとって全ての場所が 怪異と隣り合わせの日常 となってしまったのだ。

  

  

  

  

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私とB子は真面目に聞いてはいたが、当然信じがたい。

A子が狂ってしまったとも思えない。

でもA子はまるで訴えるように一生懸命に話していた。

時には涙目になって、怖い怖いと震えていた。

 

聞いている側の者というは、怪談を他人事で聞いている感覚にしかなれないものだ。

聞いて、ゾッとしたり怖くはあっても実感はない。 

  

  

そんな話を聞く事も日常化していき、A子が例え今そこに「ナニカ」が見えていたとしても

私とB子には見えないのだから、ただA子の為に慰めたり激励するしかなかった。

  

  

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そして高校3年の夏休みの事。

田舎に帰省した先輩2人に誘われて夜のドライブに行く事になった。

運転免許のまだない私達には魅力的なお誘いだ。

  

行先は田舎なので大したコースなど無く、山手のこじんまりしたスカイライン、

そして海岸線に位置する「なな曲がり」といお決まりのコースだ。

「なな曲がり」は密かに心霊スポットと呼ばれており

七つのカーブを曲がりきると女の幽霊が出るなどと言われていたが

実際に見たという人は一人もいなかった。

だからドライブを盛り上げるための小話としか捉えていなかった。

私とB子は行く事にしていたがA子は迷っていた。

だけど都会で少し垢抜けし帰省した先輩たちの顔を見て

行くと言い出した。田舎を出ての新生活の話を聞きたくて堪らないのだろう。

という事で3人とも参加、先輩を含めてメンバーは5人という事になった。

  

 

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当日  

先輩が運転する車に迎えに来てもらいメンバーは揃った。

運転席と助手席に先輩、後ろにA子、B子、私の3人だ。

  

山手のクネクネしたスカイラインを抜けて峠を越えると海岸線沿いの道に出た。

少し走ると堤防とテトラポットが右手に続きその横に真っ黒な海が見える。

空も海も真っ暗で遠くに薄く、灯台の光がぼーっと見えていて これはこれで怖い。

日中は海水浴場などもあり賑やかな通りだが、夜になるとこんなにも

静かで寂しいものか。昼とのギャップで余計に不気味にも感じるのだろう。

外灯も少なく

車のヘッドライト照らされるアスファルト以外は何も見えない。

すぐに 「なな曲がり」に差し掛かる。

細かく説明すると

この海岸沿いの道にはにはうねうねと七つの曲がり角があり、

それ毎にカーブミラーが設置してある。

だから全部で七つのカーブミラーがある事になる。

そのミラーは

結構な高さがあり錆びれたオレンジ色のポールに大きな円状の鏡が付いており

見る時に少し顎をあげて仰ぐように見なければならない。

  

噂では

そのカーブ毎にミラーを数えれば七つ目のカーブを曲がり終えた時に

目の前、つまり道路の真ん中あたりに女の人の霊がこわい顔で立っている。。。

そんな場所である。

先輩が

「 カーブを数えるぞーっ」と興奮している。

  

ドキドキしながら緊張してA子の方を見ると

小さくなってギュっと目を瞑っている。

B子はキョロキョロと窓の外を興味津々に見ている。

  

  

あっけなく  

あっという間に「なな曲がり」は数え終わり 通り過ぎた。

  

車を走らせながら先輩が聞く。

  

「 ねぇ なんか見えた!?

  噂では七つのカーブを曲がったら女の人が道路の真ん中に立ってて・・・

  とかって話だけど、何も起きないねー。」

  

  

私とB子は そうですねえぇ。。ハハハ。。 などと返事をしていたが

A子は相変わらずギュっと目を瞑ったまま無言で固まっていた。 

  

誰も何も見なかったという事で

すぐに話題はこれから行くラーメン屋の話で盛り上がった。

少しほっとしながら。

  

  

  

  

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それから後日、A子とB子と3人でランチの約束をして会っていた。

楽しく話しながら人通りの多い商店街を歩いていると

  

突然、A子が左右にフルフルっと揺れたと思ったら いきなりすっ転んだ。

私とB子は驚いて

  

「 え!? 今 何に躓いて転んだ!? 」

  

平坦で何も障害のない道のはず。

  

いきなり視界からA子が消えたみたいに転んだ、かと思うと

私の手を握って引っ張りながら

すぐ横にあるコンビニへ向かって早歩きし、

コンビニの店の壁に背中を付ける様な体制になると地べたに座り込み

ポロポロ涙を流しているA子。

  

「 どうしたの?? 」  B子も走ってこちらにやってくる。

  

  

A子曰く、

前からフラフラしながら歩いてきた女の人がいきなり自分の正面に立ちはだかり

両肩に手を置いて思い切り揺すられてバランスを崩して転んだらしい。

  

  

B子はそれを聞いて 何を言っているのか理解するまで時間を要した様だが

理解した瞬間に少し動揺している様だった。

私も同じく動揺していた。

  

  

  

私はA子に聞いてみる。

  

「 ねえA子 その女の人ってアレ・・・だよね?

  どんな感じの人? 」

  

  

A子は答える。

セミロングの枯れ枝の様な汚い髪の毛で、顔が腐ってて緑色の女の人に見えたと。

フラフラこちらに向かって歩いて来る時から通りにいる他の人には

見えてないんだと分かってたと。

でも、肩を掴まれて転ぶ程に揺するなんてっ ありえないっ!

怖い!怖い!怖い!

  

  

そこまで言うとまた興奮したように震えて泣き出した。

  

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実は「なな曲がり」を通り過ぎる時、何となく私は道路でなく丸いカーブミラーを見ていた。

  

先輩たちは、

噂通りに 七つ目のカーブの終わりの先の道路に視線を集中させていたかもしれない。

だけど

行き過ぎるカーブミラーに黒いモヤの様なものが見えて来た。

ん?何だろう?深く考えずに見ていた。

するとじわじわと

丸い鏡の中の左下の辺りに 顔の半分だけで こちらを覗き込んでいる

女の人の顔が見えて来た。

感覚なのだが、、、なんとなくこっそり隠れて見ている気がした。

怖かったが目をそらす事は出来なかった。

  

  

  

  

そしてそれは最後の7つ目のミラーだけに 居たんんじゃない。

一つ目のミラーからいた。

そして7つの全てのミラーに いた。

  

  

  

ずっと最初から私達をずっと覗いていたのだ。

気づかれてはいけない そんな気がして私は黙っていた。

そしてその顔の肌は緑色だった。

自分の妄想だと 思い込もうともしていた。

  

  

  

  

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さっきB子がA子の話を聞いて動揺した理由はきっと私と同じだろう。

A子が転んだ時、

何も見えなかったが

「 匂い 」が

獣の臭いのような、腐敗したような悪臭がしたからだ。

生臭いその 「匂いの塊」 が、私たちを横切って行った。

眼には見えなかった。匂いだけ。

そして、それに押されてA子が転んだ。

  

私もB子もそれを きっと たまたま感じてしまったのだ。

私達は黙り込み、もうその話には触れる事はなかった。

 

 

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それから私とB子に何かが起こるという事は無かった。

そして私達は卒業した。

それぞれの道へ進み もうあまり会わなくなった。

  

  

また同窓会などがあれば人づてに聞く噂もあるのだろうけど。。。。。

  

   

  

  

 

残念ながらA子の幸せな噂は まだ聞いたことがない。  

  

  

 

 

  

  

  

   ーーーーーーーーーーーーーーーFINーーーーーーーーーーーーーーーーー

  

 

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