ひとくちに霊感といっても色々ある。
霊そのものが見えるという人もいれば、なんとなく気配を感じる、あるいは姿は見えないけれど声が聞えるという人まで様々だ。
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私の場合は、においだった。
近しい人が亡くなると、そのにおいを嗅ぎ取ることができるのだ。
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ピアノの先生が事故で亡くなったときは、一日じゅう彼女の香水のにおいがしていた。
学生食堂でカレーライスを食べながら「なんだか機械油みたいなにおいがするねえ」なんて話していたら、町工場を経営する祖父が心臓発作で倒れたと報せがあった。
徳島に住む従弟が火事で焼け死んだときには、あまりの悪臭にしばらくご飯が喉を通らなかった。
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とにかく場にそぐわない不自然なにおいを嗅ぎ取ったら、それは虫の知らせに違いないのだった。
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その日は、穏やかな小春日和だった。
授業中うとうとしていると、なにやら良いにおいが漂ってくる。
ふんわりと甘い、お菓子のようなにおいだ。
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調理実習でケーキでも焼いているのかな?
それとも裏のパン屋から風に乗って運ばれてくるのだろうか?
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なんだか得した気分になり、大きく息を吸い込んだ。
とたんに涙がこぼれてきた。
なぜだろう、無性に懐かしいような、優しいような、それでいて少し切ないような。
おそらくそれは、私のよく知るにおいに違いなかった……。
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授業を終えて帰宅すると、なんだか家の中がバタバタしていた。
見ると、母は目を真っ赤に泣き腫らしているし、
父もどうやら会社を早退したらしく、険しい表情でどこかへ電話をかけていた。
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なにごとかと尋ねると、先年嫁いだ姉の生後まもない娘が亡くなったのだという。
育児疲れのため乳をやりながらつい居眠りしてしまい、窒息死させたのだった。
作者薔薇の葬列
掌編怪談集「なめこ太郎」その二十六