我が家が怪異に悩まされていることを知る知人に誘われ、ある寺院に行った。
その寺院は日蓮宗のお寺で、人生相談や開運などの相談ができるお寺だった。
知人とは現地で待ち合わせをして、私は夫と娘とその寺院に行った。
受付を済ませて案内された広間に行くと、20人くらいの人たちがそれぞれの悩みを相談していた。
私たちはそこで一人の御上人を紹介された。御上人は別なお寺の住職だが、忙しい時に同じ宗派である寺院を手伝いに来てるらしかった。
その御上人に我が家でおこる怪異を相談し、その後、二階に移動して、他の相談者と一緒に祈祷してもらった。
知人も一緒だった。
座敷に腰を下ろすと、タオルと温かくて大きな瀬戸物を渡された。初めてのことなので勝手がわからない私は周囲を見回した。
皆、楽な姿勢でタオルを頭や膝におき、その上に瀬戸物をのせていた。胸の前で抱きしめている人もいた。
私は足を伸ばして座り、太腿の上にタオルと瀬戸物をのせた。
腿がじんわりと暖かくなり心地良かった。
程なくして厄除けの経が始まった。
(私はあまり信心深くなくて、こういうことに疎く、唱えている文句が何なのかよくわからない。これは般若心経なのか…? でも住職と他の御上人たちの声が混じり溶け合う文句は魂と身体を揺さぶられるものだった。和太鼓を聞いた時と感覚が似てると思った)
程なくして私の意識は遠のいた。遠のいていったことさえ気がつかなかったし、どういう状態だったのか今でもよくわからない。
気がつくと目の前に砂利が見えていた。気がつくと…というと少し違うのだが、ほかに説明ができない。
とにかく、後で思い出すとそんな感じだった。
砂利が見えて、底から清水が渾々と湧き出ていた。
湧き出る清水に上から陽の光と共に葉っぱがはらはらと舞い落ちていった。
その光景を何を思うまでもなく、無心にただ見つめていた。
光に葉っぱの葉脈が透けて見え、その葉脈が赤くて、
「あ、赤いなあ」
そう感じた瞬間、私は現実に引き戻されてしまった。
経を唱える力強い声が、振動となって身体を震わせる。
今、寝てた…?
私は自分でも呆れかえってしまった。こんな、経が空気を震わせ身体にジンジンと伝わってくるような状況で、寝てしまうなんて…。それにしても身体がぐらついて倒れたりしなくてよかったと胸をなでおろした。
私は先程の夢の光景を思った。
とても静かな夢だった。本当のことを言うと夢とは思えなかった。
あんな、音のない静かな世界は私は初めてだった。
後日、御上人にこの話をした。すると御上人は
「それは水神ですね」
と言った。
でも私は、いわゆる龍神を視たわけではない。ただ、水神と言われて妙に納得してしまった。
私の想像力では生み出せない静謐な世界。でも赤い葉脈を視て、自我がそれを認識した途端に消えてしまった。儚い世界でもあった。
葉脈が赤かったことに対し御上人は、水神なので赤はあまりよくないと言った。
私がそれを視たときの印象を話すと、
「ああ、それなら大丈夫だと思います」
そう話した。
一度、家を見てもらう約束をし、この日は終わった。
作者國丸
これはブログに載せてあるものを加筆修正したものです。
我が家の怪異を最初から全て話すと、ドン引きされます。
姉に話しましたが、笑って終わり。信じてもらえませんでした。
いいんです。信じてもらえなくても。話のひとつとして読んでくだされば…。
そんなふうに思いながら、それでも言いきっちゃう。
全て実話です。
※私たちが紹介してもらった方は別な寺の御住職でしたが、何て呼べばいいのか知人に聞いたところ、紹介してもらった人が御上人と呼んでたそうなので、住職ではなく、御上人と呼ばせてもらいます。