街で鳥のような羽根付きのカチューシャをつけている人を何人も見た。
最初は笑いをこらえるのに必死だったが、日を追うごとにそれを付けている人が増え始め、笑い事ではすまなくなってきた。
テレビをつけたら「新エネルギー搭載ジェットカチューシャが遂に登場!」というCMが流れていた。
驚いた事に、いま人気の若手俳優が頭にそのカチューシャをとりつけて、空を自由自在に飛びまわっている。
「これってCGだよね?映画かなにかの番宣?」
その時、視界の隅で何かが動いた。私は閉めたカーテンごしにベランダの向こうを伺い見た。
途端に、黒い物体が猛スピードで左から右へと何回も通り過ぎていく。
「と、鳥だよね?ここ五階だよ?」
意を決してカーテンを開くと、空には無数の人間たちが飛び回っていた。
「なんで?なんで人間があんなモノをつけただけで空が飛べるの?」
私は恐怖で布団に潜り込んだ。
「仮にあの羽根が超高速回転で人間の身体を浮かせたとしても、あんなタケコプターみたいな原理で人間の首が自分の体重を支えきれるわけがないじゃない!それとも私が知らないうちに人類は重力をも超越した大発見をしたって言うの?!」
私は泣きながらも、そのまま眠ってしまっていた。
携帯アラームが私に朝を教える。
私は布団から起き出し、カーテンの前に立った。
もし…もし、まだ人が空を飛んでいたなら私は全てを受け入れよう。
ここが私の知っている世界ではなかったとしても、私はおそらくこのままここで暮していかなければならないのだから、要らぬ疑問は投げ捨てよう。
長いモノには巻かれないといけない。私もあの最新型のカチューシャを買いにいこう…
私はゆっくりとカーテンをひいた。
了
作者ロビンⓂ︎