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短編2
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鹿塚

とある山間の寺で聞いた話。

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寺の近くの村には昔、若いが大変腕のいい猟師がいたそうだ。特に鹿を狩るのが得意で、彼がとってきた立派な角や毛皮は、高く取引されたという。

しかし、若者には慈悲の心というものがなかった。

その村の猟師たちの暗黙の了解では、狩りの獲物とするのは成長した雄のみと定められていた。しかし、若者はそんなことは意に介さず、時に身重の雌鹿を仕留めることさえあった。

その度に他の猟師たちは彼を諌めたが、若者は聞く耳を持たなかったそうだ。

そんな彼もやがて妻を娶り、すぐに子供ができた。若者は、我が子の誕生を心待ちにしていたという。

猟師仲間たちは、子供が生まれれば若者の非情な行いも落ち着くだろうと期待していた。

しかし、妻が臨月を迎えた頃、若者は山中で遺体で見つかった。一人で狩りに出た彼が三日も戻らなかったため猟師仲間たちが山を捜索したところ、沢に倒れているのを見つけたのだ。

それは異常な死に姿だった。腹から鹿の角が生えていたのだ。

まるで若者の腹を食い破って、今にも鹿が出てこようとしているように見えたという。

猟師たちは初めての光景に慄いたが、とりあえず若者を連れて帰らねばと、腹から突き出ている角を抜こうとした。ところが大人三人で引っ張っても角はビクともしなかった。そのうち本当に腹の方が裂けてしまいそうだったので、仕方なく若者をその場に埋葬した。

異常な死に姿の若者は、とても村へ連れて帰れるものではなかったのだ。

さて、彼の身重の妻になんと説明しようかと猟師たちが肩を落として下山したところ、村は村で大変な騒ぎになっていた。

死んだ若者の妻が昨晩急に産気づいたのだが、奇妙な赤ん坊を生んだというのだ。

体の右半分は人間の姿だったが、左半分は獣のそれだった。みっしりと毛が生え、背中には白い斑点模様があったという。

幸か不幸か、子供は死産だった。

母親が出産の衝撃で気を失っている隙に、不吉な子供だと筵に巻いて埋めてしまったと産婆は話した。しかし、手伝いに来た近所の女衆も皆、その赤ん坊を目にしたという。

赤ん坊の話を聞いて、猟師たちはゾッとした。

「こりゃ、鹿の祟りやで」

誰かの言葉に皆が同意し、その日のうちに若者と赤ん坊の遺体を掘り返すと、近くの寺に供養を頼んだ。

住職は念入りに経をあげ、寺の敷地内に鹿と父子を慰霊する塚を建てた。

村では以後、鹿を狩ることは禁忌になったという。

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「その後、若者の妻はどうなったのですか?」

私は、慰霊塚を前にして彼女に尋ねた。

「…産後生死の境をさまよいましたが、なんとか一命をとりとめました。その後は寺に入って、夫と子供、そして夫が奪った鹿たちの魂を弔い慰めたそうですよ」

寺の主人である尼僧は、小さな鹿塚の由来をそう締めくくったのだった。

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