つい最近経験した話です。
私は30代の男です。
昔から友達が少なくて、その数少ない友達とも結婚を機に疎遠になってしまってほとんど連絡を取ることも無くなっていました。
北関東の小さな町に住んでいて、顔馴染みばかりなんですが皆やはり仕事なり子育てが忙しかったりでなかなか遊ぶ機会はありません。
コロナの影響もあって今年はさらにそれが顕著で、特に公務員みたいな堅い仕事の友達とは会うのを躊躇われました。
それがつい先日、自粛が明け、私の県では感染者もだいぶ減ってると言うことで、妻が子供を連れて帰省したんです。
すると私は家に1人で暇なので、いいタイミングだと思い友人を誘ってみることにしました。
数少ない友達の中から、同じように友人の少なそうな友達を誘うと、二つ返事でOKをくれました。
その日の夜に待ち合わせて飲みに行くことにしました。
彼と2人で飲むなんて数年ぶりです。
お互いの近況報告に花を咲かせ、いい感じに酔ってきたあたりで友達がこんな事を切り出しました。
「お前、霊感とかある?」
そんな話したこともないし、彼はそういう話は苦手というか、むしろ嫌いな類です。
オカルトや超常現象は信じないタイプでした。
それは私も同じで、少し面食らっていまいました。
「何?急に。どうしたの?」
私が聞くと、彼は少し恥ずかしそうに語り始めました。
「いやー、幽霊とかそういうのじゃないと思いたいんだけど、俺実家に住んでるじゃん?で、最近庭で変なの見るようになったんだよ。最初は不審者かと思ったんだけど、違うんだよなぁ。」
彼はこういう冗談を言うタイプではなく、真剣だったので嘘ではないと思いました。
ただ、人ではない何かと言われてもさすがにすぐには信じられませんでした。
「動物とかじゃないの?イノシシとか猿とか出るだろこの辺。この前うちの庭にタヌキ出たぞ。」
「そういう動物の大きさじゃないんだよ。ほんと、大人の男ぐらいの大きさなんだよ。親も姉ちゃんも見てるからたぶんお前も来たら見れるよ」
マジかよ。と思いました。
親もお姉さんも見てる。となると、幽霊ですらないんじゃないのか?宇宙人か?とか、そんな突拍子もない考えも浮かびました。
怖かったですが好奇心が勝ってしまい、次の休みに彼の家にお邪魔することにしました。
次の土曜日
車で彼の家に着くと、玄関から彼が出てきて出迎えてくれました。
「いらっしゃい。あがる?それとも見る?」
見る?そんないきなり見ようと思って見れるものなのか?
「いや、え?」
と戸惑っていると
「呼んどいてなんだけど、見ない方がいいのかもしれない。なんか良くないものじゃない気がするんだよなぁ…わかんないけど。」
ここまできてそれはないだろう、と思っていると、家の奥から彼のお母さんが出てきました
「あら、OOくん久しぶり!あれ?もしかしてあれ見にきたの?」
お母さんの口調は軽快でした。
ハムスター飼ったから見てく?ぐらいのテンションでした。
「見せていいのかなぁあれ。やばい奴じゃないの?」
「ずっといるけどなんともないじゃないの。」
当たり前のように繰り広げられる会話について行けませんでした。
「今もいるんですか?」
「いるかも。俺たち以外に誰かいるかな?って意識すると出てくるんだよ。」
そんな事あるでしょうか?
霊感も無いし、幽霊なんか見たことも感じたこともありません。
しかしそんなことを言われたら、やっちゃうじゃないですか。
彼の説明では
感覚的に言うと、景色の中に擬態してる虫を探すような感じでなんとなーく庭全体を見てると出てくる
とのことで、言われるままにやって見ました。
嘘だと思われるでしょうが、本当に現れました。
現れたと言うか、ずっとそこにいたんだと思います。
彼の家の庭はさほど広くなくて、その庭に私の車が停まってるので、ひらけたスペースは無くなっています。
テニスコートの半分ぐらいのスペースの庭に私のミニバンが停まってて、玄関から庭の方を見ると私の車、右手が門、左手に小さな物置、車を挟んで反対側に車庫があります。
車庫と門の間に生垣があるんですけど、その手前に明らかに人っぽいものがいました。
なんというか、うまく説明できないんですが人なんです。
でも人じゃない。
服を着て、髪の毛が生えてて、目と鼻と口もあるんですけど、よく見えないんですよ。
全部がよく見えない。モザイクとか、曇りガラスとかそういう感じではなく、しばらく会ってない知人を頭の中で思い出そうとした時ぼんやりとしか思い出せないじゃないですか。
そういう顔でした。
なので、今頭の中でアレを思い出しても、どんな顔だったか思い出せません。思い出せないというか、認識できない顔なんです。
それは、止まっているのではなく、しきりに動いていました。
こっちに来るとか、暴れてるとかじゃなく、ひとつの方向を見たまま行ったり来たりしてるみたいな。
一歩進んで、そのまま一歩下がるみたいなのを繰り返してるんですけど、コマ送りみたいな動きで、パラパラ漫画というか下手くそなストップモーションというか、とにかく人の動きじゃなかったです。
説明が下手ですいません。
時間にすると数十秒かもしかしたら十秒程度のことだったと思います。
息もせず見入ってしまい、ふと我に返って友達の方を見ると彼もジッとそれを見ていました。
お母さんは慣れてるのか、いつの間にか家に入ってしまっていました。
もう一度見ると、すでにいなくて、でももう見たくないと思ってもう一度集中してみるのはやめました。
驚きと、恐怖とで呆然としてると、友達が
「な?アレなんだと思う?幽霊かなぁ…」
と。彼もだいぶ慣れてしまっている様でした。
その後しばらく彼の部屋で喋って、その日は帰ることにしました。
帰り際、庭からバックで車を出そうとすると、一台の車が庭に入ろうとしてきて鉢合わせしました。
先に出してもらって、後から入っていった車を見て驚いたんですが、彼のお母さんが乗ってたんです。
びっくりして車を降りて友達のところに行くとお母さんもこちらに気付いて
「あらOOくん久しぶり!来てたんだ!ごめんなさいね買い物行っててお構いもできずに…」
と…
友達もびっくりしてました。さっき話してたのは誰なんだろう?こんな怪談みたいなオチある…?と、鳥肌が止まりませんでした。
とりあえずその日は帰って彼に連絡しました。
「すごい体験だったよ。怖かったけどマジで不思議だな。」
みたいな事をLINEしたんですが、彼からの返事は
「え?何が?」
でした。
お母さんだけじゃなく彼も彼じゃなかったんでしょうか?
恐ろしくなってそれ以上返事できませんでした。
作者文