短編2
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プロムナード

 十五夜の眩しいくらいの月明かりの下、二人はそぞろ歩いている。もうべたべたくっついて歩くような間柄でもなく、微妙な距離を保ちながら歩いていた彼が突然口を開いた。

「私の好きな怪談は“雨月物語”ですが、特に“菊花の約”は秀逸なので、是非図書館で借りて読んで下さい」

「いきなりどうしたの?」

「一行でお題全部カバーしたぞ。すごいだろ」

「馬鹿じゃないの?何よ、それ?」

「この見事な月に何か一言添えたくなってね」

「でも、今のはダメでしょ。真面目にやんないと叱られちゃうわよ」

「じゃあ…月が綺麗ですね」

「それ、私に告ってるの?」

「今更君に告ってどうするのさ。本当に今夜は月が綺麗だと思ったんだ」

「でも、それって漱石がI love youの和訳例として挙げたんでしょ?」

「ところが、実際漱石がそう言ったという証拠は無いらしい。どうも都市伝説らしいね」

「なんだ。ちょっとがっかり」

「“影や道陸神(どうろくじん)、十三夜のぼたもち”」

「今度は何?」

「これは真面目に怪談絡みだよ。それも月にちなんだ物だ。岡本綺堂の“影を踏まれた女”に出てくる童歌さ」

「どんな話?」

「月夜の晩に、ある女性が、往来で影踏み遊びをしている子供たちに自分の影を踏まれた。彼女はそれを異常に気にする。影を踏まれるのは縁起が悪い、良くない事が起きるんじゃないかってね。実際、昔はそういう言い伝えもあったらしい」

「それで?」

「結論的に言うと彼女は不幸な目に会うんだが、大事なのはそれまでのプロセスだね。そっちが重要で面白いわけだが、ネタバレになるので、これ以上言わない。あとは自分で読んでみて。古い作家だから、それこそ図書館で探した方がいいだろう」

「結論がわかったら、もう読む気がしなくなったわ」

「君はいつもそうだな。結論に至るプロセスの段階こそが面白いのに……」

 ふと気がつくと、微妙な距離を取って歩く彼の足が、一歩一歩じっくりと私の影を踏みしめている。

Concrete
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子供の頃の影ふみ遊びを思い出しました。

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