「昨日、〇〇市の中学校に通う15歳の少年が自宅マンションから飛び降りるという痛ましい事件が発生し、病院に運ばれましたが死亡が確認されました。自室には遺書が残されており、苛めによる自殺と考えられております。学校側では苛めの認識はなかったが、現在事実関係を調査しているとのことです。」
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テレビのニュースを見れば、この手の話題に事欠かない。
全く日本という国はとことん平和なのだ。
年間で2〜3万人とも言われる自殺者数。
件数が多過ぎて特異な背景でもなければニュースにすらならない。
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どこかの人権団体が叫ぶ。
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「世界には生きたいと思っても生きられない国の子供達もいます。日々の糧に困窮し売りに出される子供、銃を持たされ戦争に利用される子供達。どうか皆さんは自分がどれだけ恵まれた環境に生まれたのか、自分の命の大切さを知って下さい。」
マスコミは沈痛な面持ちで、面白可笑しく事を伝える。
明日になれば学校は吊し上げをくらい、わかり切った顔で評論家は苛めの悲惨さを訴えるのだろう。
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辟易する。
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学校は社会生活を学ぶ場なのだろう?
腐った顔をした政治家はその腐った口からこう言うのだ。「苛めを撲滅させる。」
自分たちが派閥に別れ、罵り合いマウントをとろうとしている姿を鏡で見てみるといい。学校は社会の縮図なのだ。マイノリティを追い詰め優劣関係を構築するモノなのだ。子供達はそんな社会の仕組みに気がついているだけに過ぎない.....
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私は煙草に火をつけるとフッと息を吐く
紫煙がゆらゆらと立ち昇る。
身支度を整え、これから会社に向かわなければならない。
朝から胸糞悪いニュースを見せられた。気分が乗らない...
だが今日は下期の経営会議がWEB上で行われる。
私は今日その場で自店の上期の業績を報告しなければならない。毎期数店舗、業績の良し悪しによって抽出された店舗が報告を行うのだが....
言うなれば悪魔の宴へ招待されたわけだ。
「Mはいいよな、売上絶好調だし、褒められて終わりでしょ?」
何をとち狂っているのか、昨日の同期からの電話の内容だ。
役員達の前で業績を報告する苦痛がわからない訳ではあるまい。
小難しい経済用語とアルファベットの頭文字を並べた業界用語を駆使し、実績の良い悪いではなく自分達の知識をひけらかされた挙句、今後はこうした方が良いとのありがたいお言葉を頂くのだ。
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正規社員だけで8000人近くを抱える大きな箱の中の上位10名程の役員達....現在の私の序列は好意的に見積もっても200位程度か....
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なるほど、この世界はまさに蠱毒なのだ。
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毒虫が毒虫を喰らいさらに凶悪な毒を濃縮させていく。
その猛毒を持つもの達が世界を支配しているのだ。
学校も会社も政界も国も考えてみれば全て蠱毒ではないか?
弱い虫は喰われ強者の糧になっていく、その壺の中から今朝のニュースの彼は飛び出しただけなのだ。
喰われるのが嫌で喰うのも嫌で.....
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そう言う私も数多の毒虫を喰らい続けて今の位置まで来た。
自覚はなかったが私が喰らった虫もいるし、勝手に飛び出した虫もいる。その壺の中で序列が1位になれば、また次の壺に入れられる、繰り返し繰り返し濃縮された毒虫が今の私なのだ。では毒虫の頂点は誰だ?この会社では会長だろう。
だが、それも経済界では序列は高くない。政界では内閣総理大臣か?地球上ではアメリカ大統領か?
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「ふふふ」私は思わず声を出して笑った。
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この蠱毒の壺に終わりなどない、一体何時迄続くのか?
この地球は神が創った蠱毒の壺。
生きている限り逃げ出す術などありはしない。輪廻の輪から脱する事(解脱)を悟りとした、仏教系の教えが今程心に染みた事はない。
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「俺、悟りの意味を理解したかも」
そう言って笑った私に同僚は不思議そうな顔をした。
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WEB会議も無事に終わった。
来期にはどうやら私に新しい壺を用意してくれるらしい。
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さらなる猛毒を持つ虫達の壺を。
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......ある日の夢.....
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私は何処かの知らないビルの屋上にいた。
私の目の前には同僚の1人が立っている
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「お先に」
そう言って後ろ向きに踏み出した彼の顔には解放される人間の満面の笑みが浮かんでいた。
作者Shootingstar
心霊的な怖い話ではありません。
人間世界の怖さ、私が感じた怖さを文章にしてみました。
つまらないと思われた方には申し訳ありません。