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中編4
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あおおああ

      誰も悪くない

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U君が大学生1年生のとき

はじめての彼女ができた

同級生たちに相談して色々と助言をもらい、時にはやしたてられながらも、やっとのことでお付き合いに至った彼女だ。

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ある日…確か7月31日、花火大会の日だった。

プレゼミのみんなと共に行った花火大会で、みんなの善意といたずら心で彼と彼女は2人きりになった。

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お互いにはじめての彼氏彼女同士の2人はぎこちなく接していたけれど、この日を期に手をつないで歩けるようになった。

『人混みではぐれないように』と、その言い訳ができて2人とも幸せだった。

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結局、花火は2人きりで見た。

花火が終わり、駅へと向かう人の波の中で互いに小さく手を振って、『またね』と別れた。

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以上が警察署で話したU君と彼女との最後の思い出だ。

彼が後で知った話として、彼女はそのまま駅には行かなかったようだ。

U君は彼女が気を使って、自分の自転車の場所でお別れしたのだと思っていた。

でも実は同じプレゼミの女性陣と今日の反省会の名目で飲み会に誘われていたらしい。

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その日は女性3人で遅くまで飲んでいた。

まだ18才、加減もわからず飲んだ酒のせいでろくでもない奴らに狙われた。

そういうことを何度もやっている常習犯のグループだったらしい。

結果として3人の女性は消えない傷を受け、内1人は死を選んだ。

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飲みに誘った女性2人は『私たちのせいだ』と泣いてU君に謝った。

彼女らもひどい辱めを受けたのに、まるで自らが加害者であるかのように、謝った。

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彼女らは実際のところ、ひどく錯乱していたのだろう。

どういう話の流れかは覚えていないが、「あの子まだ処女だったのに」と言われたことをU君は忘れられなかった。

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彼女は花火大会の翌日、死体で見つかっていた。

自殺、とだけ教えられた。

U君はなじられるのを覚悟で彼女の葬式に行ったが、思いがけぬほどに彼女の両親は優しくしてくれて、思い出を話すたびに涙がこぼれた。

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ただ、木棺の中の彼女との面会は断固として拒否された。

そのことに両親の内心の怒りや、やるせなさを感じてU君も食い下がりきれなかった。

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U君が再び彼女を感じたのはそれからひと月ほどしてからだった。

彼女ら3人を凌辱し、彼女に死を選ばせた奴どもへの憎しみを持て余した彼は

警察や裁判所への問い合わせで、奴らは今自分の手には届かないところにいると知ることでさらに無力感を深めていった。

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そんな時、ふらふらと街を歩いていると見覚えのある場所に出た。

花火大会の日、彼女と待ち合わせした橋だった。

平日の昼だというのに人通りの多い橋で、人混みの中に彼女の振り返る姿を幻視した。

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反射的にU君は駆け出した。

橋からつながる遊歩道の木々に、2人で初デートに行ったかき氷専門店のテラス席に、彼女が笑顔を向けるのを見つけながら走った。

近づくと消えてしまう彼女を捕まえるためにただ、走っていた。

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無心が消えて、U君の世界に音が戻ってきた時、彼は踏み切りの前にいた。

遮断機の手前に花が置かれていた。

そして

「あおおああ…」

と地の底から響くような声を聞いた。

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U君は地面がなくなったように感じたらしい。

腰から下に力が入らなくなって、立っているだけでやっとの状態だった。

「あおおああ」

声だけが聞こえる。踏み切りは遮断機が上がって車や自転車が行き交っている。

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でもそれらとは全く違うものが自分に近づいてくるのを彼は感じていた。

そして、“それ”が彼に触れた。

冷たく感じたが嫌な感じはしなかった。

ただただ、いとおしく感じた。

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「そこにおるん?」

『うん』と聞こえた気がした。

だから彼は「行こ」とだけ答えた。

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U君は大学に復学した。

地元に帰ろうかと迷ったようだが、まだここでやることがあるからと大学に残る決心をした。

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そして私に相談がきた。

U君の彼女と一緒に被害にあった彼女らからのツテらしい。

U君の彼女達の事件はその頃大学では有名だったし、私は心霊専門家の人って思われてた

し私は素直にU君に会った。

相談内容は『幽霊を見る方法を教えてほしい』だった。

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声だけじゃ彼は満足できないらしい。

さて、私は質問で答えた。

「あなたはやると決めたことがあるでしょう?」

U君は黙ってうなずいていた。

だから私は「それが終わったとき、もう一度だけ会えるわ」と答えた。

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最近、U君が私のところにお礼にきた。

U君は「全部終わりました」と

「ちゃんとまた会えました」とだけ教えてくれた。

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私も彼にできる限り協力したから一区切りついた心地だった。

もう二度とU君と会うこともないだろうと最後にU君に質問した。

「彼女がなんて言ってたかわかった?」

そうするとU君は軽く首を横に振って

「ありがとう、ですか?」

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「いいえ、彼女は“愛してる”って言ってたのよ。」

そう言うとU君は泣きそうに微笑んで「ありがとう」と言って帰って行った。

私は、ああ、ちゃんと終わったんだ。と安堵した。

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電車に轢かれ、上顎から上が無くなった彼女はもうU君に取り憑いていない。

彼女らに許されないことをした奴らに完璧に回向された。

彼らには永遠に聞こえるだろう

「あおおああ、あおおああ」と

「ゆるさない」と

Concrete
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怨念は消えず、でしょうか。
U君やご友人の方々の無念さが伝わってきました

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