これはわたしが小学1年の頃のお話です。
この日はお出かけのために市内のデパートに向かっていました。
デパートに向かっている途中にいつも山沿いの道を車で通っているのですがわたしは何故かこの道が苦手でした。
なんとなくですが通るたびに誰かの強い視線を感じてしまうのです。
wallpaper:140
nextpage
そして近道のために今日もその道を通りました。
その時何かが車目掛けて走ってくるのです。
それは、キツネでした。
血走った目に剥き出しにされた白く鋭い牙、鼻元には深いシワが刻まれていて幼心ながらキツネが怒っているというのが手に取って分かった程です。
それだけキツネは怒りに満ちた表情をしていたのです。
nextpage
わたしはとっさに身を縮めました。
両親がわたしの異変に気づき父が道路脇に車を止め、両親共怯えるわたしを慰めてくれました。
「何か嫌なものでも見たの?」
やっと少し落ち着いたわたしに母が問いかけました。
「キツネさん…すごくおこってた」
わたしはそれだけ答えました。
それから車を走らせデパートには行かずに家に帰って塩でお清めをしました。
nextpage
後から分かったのですがあの山沿いの道には昔、お稲荷様を祀っていたそうです。
祠を綺麗にしたり周辺でお祭りをしたりそれはそれは賑やかなものだったそうです。
しかし時は流れお稲荷様は人々から忘れ去られてしまいました。
綺麗だった祠も荒れに荒れ、賑やかな祭りもすっかりされなくなり、周辺は雑草で覆われ酷い有様だったようです。
nextpage
この仕打ちにお稲荷様が怒らない筈がありません。
昔この山沿いの道で何台もの車が事故に遭っていると聞きました。
軽いものから大事故まで、酷いときには車が勝手に炎上したこともわたしが知っている限りでは数回くらいありました。
また炎上の原因も事故の原因も不明だそうです。
炎上した車はまだまだ新車で不具合なんて見当たらないような車ばかりだし、事故を起こすにも障害物もカーブも凸凹もなく事故を起こすような要因になり得る物が一切ないのです。
nextpage
それからわたしはあの山沿いの道を通っていません。
車が炎上したのも、事故を起こしたものも何が原因だったのかは未だに不明だそうです。
あのお稲荷様は今でも再び自分を敬い、祀ってくれる人を待っているのでしょうか?
作者NAZUNA