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長編11
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人面瘡

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この話は、

フィクションだと思って読んで頂けると、

有難いです。

その方が、もしかしたら今でも、

苦しみながらも生きているのかも知れませんので。

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忘れもしません。

私が、中学校 1年生の時の話です。

私のクラスメートに、

T君と言う男の子がいました。

彼のお兄さんは、

高校を中退し、悪い連中とつるんでいる、

そんな人でした。

そんな影響もあったのか、

彼自身も、やんちゃと言うか、

すごく近づき難い雰囲気でした。

先生からの呼び出しは、当たり前ですし、

その態度も、非常に悪かったそうです。

T君は、いつも子分を従えてましたが、

その子分も、ただ、従うばかり。

実は、私とT君とは、ご近所で、

昔から、T君の母親は私の母と仲が良く、

何かあると、T君やその兄の事を、

母に相談をしている、そんな仲だったそうです。

事実、私も小さい頃から、T君と仲良く遊んでいましたし、

今となっても、クラスメートの中では、

T君に近い存在でした。

何よりも、恥ずかしい話、

小さい頃から、T君の事が好きだったので。

周りがいくら怖がっていても、

クラスで浮いた存在でも、

幼なじみで、昔からのT君を知っていますから、ちっとも怖くなく、

いつも、余計なお世話を焼いていました。

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ある日の下校中、私は道の向こうに、

T君と子分がいることに気が付きました。

私は声を掛けようとしました。

「 Tく、、、

突然、T君の声が耳に入って来ました。

「 おぃ、カラス、お供え物食べたいんか?

食わしてやろうか?」

私は、えっ?と思い、じっと見ていました。

T君が、お地蔵さんに止まっているカラスに向かって石を投げました。

しかし、石は、カラスではなく、

お地蔵さんに当たり、それがT君の方へ、

跳ね返りました。

カラスは、バサッバサッと、逃げて行きました。

T君が急に、

「 痛ぇーっ !」と。

跳ね返った石が、T君に当たったらしく、

T君は左顔を押さえています。

「 痛ってぇーなぁ、何しやがるんやっ! 」

T君は怒り狂い、子分が抑えても無駄で、

彼は、腹いせにお地蔵さんを蹴り続けてました。

私は走り出しました。

そして、

「 T君っ!!

こんな事したら、バチあたるよっ!! 」

と、T君を突き飛ばしました。

「 K (私の事です)、何すんやっ!」と言いながらも、

「 T 、、、左の頬っぺたから、血ぃ出とるし、

手当てした方が、良いんやないか? 」と、

子分の1人が説得して、

分かったわ、、、と、T君が呟き、

そして、みんなその場を去って行きました。

私は、

( お地蔵さんに、こんな事、、、)

と、ドキドキし、

お地蔵さんの前にしゃがんで、手を合わせました。

( お地蔵さん、ごめんなさい。許して下さい )

そして顔を上げた時です。

( 、、、!!

えっ!?

お地蔵さんの顔の左側が、無い、んか?

欠けちゃったんけ、、、? )

ヤバいと思い、

欠片を探しましたが見つかりません。

暗くなるまで、そこに落ちてた色んな石を

合わせてみましたが、上手く行きません。

( どうしようか、、、)

と、思いながらも、辺りは暗くなってきてしまい、

私は、明日また探そうと、家に帰りました。

かなり気にはなっていたのですが。

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翌日、T君は、

左目の下に絆創膏を貼って登校して来ました。

みんなは ( また、喧嘩じゃない? )と、

話していましたが、

私は理由を知っていたので、何だか焦りました。

帰り道、お地蔵さんの所へ行きましたが、

やはり、左の頬に合う欠片は、見つかりませんでした。

その次の日、T君はいつものように学校に来ましたが、

傷が痛そうでした。

その次の次の日、T君の絆創膏は、

ガーゼに変わっていました。

しかし、痛そうなのには変わりありませんでした。

1週間も経たない内に、

とうとう、T君のガーゼは、左顔全体を覆っていました。

( えっ!? 大丈夫なん?)

私は思いました。

T君と話したくて、

そして、あれから、

お地蔵さんの左頬の欠片を探していると言いたくて、T君を、探しました。

すると子分が、私に気付いたのか、

「 Tなら、裏庭におるわ、、、」

と、何だか変な雰囲気が漂う中、教えてくれました。

私が、裏庭に向かおうとした時、

「 おぃ、あんま関わらん方がいいぞ 」

と、子分に言われましたが、

私は、何故か分かりませんが、段々と腹が立って来て、一目散に裏庭に行き、T君に言いました。

「 あんた!

自分が何したか、分かっとるんかっ!!」

T君は黙っていました。

しばらく沈黙が続き、私は焦りまして、

「どしたん、、、」

と、そっと隣に座り、静かに聞きました。

すると、T君がこっちを見て、言いました。

「なぁ、、、

オレの左側って、どうなっとるん?

おかんが、鏡、見せてくれんのや、家中の鏡も全部無くなっとるし、、、

何でやっ!? って、聞いてみても、

おかん、泣き出すし、、、

でも、オレにしてみたら、そんなん意味が分からんやろ!?

そんな事されたら、余計に気になるやろ?

学校のトイレで見ようとしたんやけど、

左目がよく見えんのや、

やし、右目で見ようとすれんけど、うまく見えんし、、、

しかも、誰か来たらイヤやし、、、」

( えっ?

そんな事があったんか、、、)

私は、一瞬、戸惑いましたが、

「 ほんなら、私が見てあげるわ、

ガーゼ、外すしね 」

と言い、T君の左の頬を覆っているガーゼを、そっと外しました。

( 、、、これは、一体、、、 )

T君の傷は、かなり膿んでおり、

骨が露出してるらしく、

傷口は、大きく膨れて開き、

あたかも口を開いているような形でした。

周囲は薄赤く唇のようで、

それは、血がほとばしっているかの様に見えました。

( えっ、、、?

これって、口、、、なん、か?

その上にある傷の、膿が開いとるのって、

目、、、なんやろうか、

2つあるし、な、、、

何か、中も赤いし、目玉なんか、な、、、)

それで、余計に

その膿と言うか、、、傷が、、、

人?の顔に見えてしまいました。

( こんなん、もう顔やん、、、!

T君の左側に、

もう1つ、、、顔が、あるん、、、!?)

T君が、イライラして、

「どうなんや?」と、

私に聞く度に、膿の口も動きます。

( あぁ、、、まあ、同じ顔の皮膚やしな )

と、内心ドキドキしながらも、

自分を落ち着かせましたが、

正直、私は、膿だらけの傷の顔らしきものから、

目が離せませんでした。

すると、

遠くからだけど、近くの耳元で、声が聞こえた気がします。

、、、、ねぇ、、、、

、、左側は、貰う、、から、、ね、、、

、、、、、、、、、ね、、、

私は一瞬、耳を疑いました。

ゾクッとしました。

しかし、

T君を同様させてはいけないと思い、

だいぶ、声が上擦っていたと思いますが、

「大した事、無さそうやけど、

あんた、ちゃんと、おばちゃんに消毒してもらわんと、ダメやよ!」

と言って、そっとガーゼを元に戻しました。

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その後、私は、

T君の頬の傷が、顔に見えた事が、

気になってしまって、闇雲に色々と調べました。

すると、

『 人面瘡 』と言う、言葉に辿り着きました。

" 体の一部などに付いた傷が化膿し、

人の顔のようなものができ、話をしたり、物を食べたりするとされる架空の病気。

薬あるいは、毒を食べさせると療治するとされる。"

と、書いてありました。

私は、実際に、T君の傷を見ましたので、

架空の病気では無いと思いました。

その原因は多説あるそうで、

寄生虫説や、恨みから来ると言う説、、、。

その時の私にしたら、

正直、どうしたらT君が助かるのか、分かりませんでした。

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そのうち、T君は学校を休み始めました。

クラスの噂は、

「暴走族に入って、刑務所におるんやろ」

とか、色々と飛び交いましたが、

私はずっと、何故だか、お地蔵さんの事が、

頭から離れませんでした。

あれからも、何度かお地蔵さんの欠片を探しに行きましたが、見つからずじまいでした。

そして、

ある日突然、母から、T君が入院したと聞きました。

私は、お見舞いに行きたいと言って、病院に行きました。

T君の入院している病院へ。

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ナースセンターの人に言いました。

「 T君のお見舞いに来たのですが、、、」

「 あぁ、はいはい、、、

えっーと、402号室ですよ、

あっ、鏡は持ってないですよね? 」

と言われ、

「、、、? はい、、、」と答えると、

402号室に向かいました。

ドアを、コンッ、コンッ、とノックしました。

「 はい、、、」

あまり元気の無い返事が、帰って来ました。

私は、ガラッとドアを開け、

「 T君!!

お見舞いに来てん!

びっくりしたやろ?

クッキー持って来たんや、食べれるやろ?」

と、精一杯の笑顔で言いました。

しかし、そこには、

左顔を包帯でグルグルに巻かれたT君が、

ベッドに横たわっていました。

私は一瞬、言葉を失いましたが、

「 T君!

わざわざ、お見舞いに来てんよ!

大丈夫なんやろ!

早く学校、戻って来てや!」

と、その場のイヤな雰囲気を、かき消すかの様に、

強い口調で言ってみたのですが、

T君は、黙ったままです。

私は、ベッドの横のイスに座りました。

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どれだけの沈黙が続いたのか。

彼が急に、キレ出しました。

「 そうや!!

オレがあの地蔵を、蹴り飛ばしたからやろ!?

やから、オレの顔の左側も、変になったんやろうがっ!!」

私は、黙っていました。

すると彼は、暫くして、ポツリと話し出しました。

「 、、、1人でおるとな、、、

誰かが喋っとるんや、、、

オレの左耳のとこで、、、

何を喋っとるんかも分からんし、、、

気持ち悪いやろ?

もう、訳分からんようになってきて。

オレ、頭、おかしくなったんかなぁ、、、」

そして、T君は軽く笑いました。

少し間が空いて、T君が、半泣きで言い出しました。

「明日、手術するらしいんや、

オレの顔の、変な所を取るんやと、、、

そしたら、、、

オレの顔、無くなるやろ、、、」

彼は泣き崩れていました。

彼が泣いたのを初めて見ました。

私は、彼をそっと抱きしめて、

「 私が、絶対に、そんな事させんから 」

と、一気に走り出しました。

お地蔵さんの所へ。

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( なんで、欠片が無いんやろうか、、、)

それが、1番の疑問点でした。

あれから毎日の様に、落ちている石の欠片を、いくら合わせようとしても、

お地蔵さんの顔は、合わないんです。

2、3個、繋げてみても。

(なんでやろ、なんでやろ、、、)

と、考えているうちに、

あっ!

と気付きました。

あの時に、T君に跳ね返った石は、

T君が投げた石じゃなくて、

お地蔵さんの左の頬の、欠けた石なんじゃないかって。

そしたら、T君に当たった欠片は、、、

すぐに、T君の家に行きました。

T君のおばさんは、

「Kちゃん、急にどうしたん?

おばちゃん、これから病院に、、、

と、びっくりしてましたが、

私は「おばちゃん、失礼します」と、

T君の部屋に向かいました。

ドアを開け、グルグル部屋を見渡し、

そして、見つけました。

T君の学ランです。

すぐに、胸ポケット、両脇のポケットを調べました。

、、、っ!!

ありました、、、

T君の、両脇のポケットの左側に、石の欠片を。

私はすぐに、お地蔵さんの所へ向かいました。

走りました。

勢い余って、転けそうになっても、

走りました。

( この欠片が、合うか合わんか、分からんけど、、、)

そして、お地蔵さんの前まで来ました。

かなり、ドキドキしています。

(欠片が合わんかったら、どうしようか?)

震える手で、

お地蔵さんの、欠けてる左の頬に、

私が持っている欠片を当てはめてみました。

あっ、、、!!

ピッタリ当てはまります。

私は、急いで、

持って来たセロハンテープで、

その欠片と、お地蔵さんの左の頬を、ピッタリとくっつけました。何重にも。

そして、お地蔵さんに、手を合わせて、言いました。

「お地蔵さん、本当にごめんなさい。

でも、ちゃんと左の頬は返しましたから、

T君を助けて下さい、、、

T君が良くなったら、彼にも謝らせに来ますから、、、」

暫く、手を合わせていた気がします

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次の日、やはり、T君の手術が行われたそうで.

母からは、

「T君、手術、上手くいったんやって!

良かったねぇー」

と、聞かされました。

私は内心、ホッとしました。

( 明日、お地蔵さんに、お礼言いに行かんと!)

そう思いながら、その日は、

久しぶりに、安心して眠る事ができました。

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次の日、私は、お礼を言う為に、

お地蔵さんの所へ向かいました。

しゃがんで、手を合わせて、

「T君を助けてくれて、ありがとうございました」

そして、笑顔でお地蔵さんを見ました。

、、、

、、、、、、

、、、私は 、、、、、、

、、、、、、

お地蔵さんの、左の頬にくっつけた欠片が、

取れています。

下には、セロハンテープにくっついた欠片が、落ちていました。

私は、、、

私は、、、

私は、

自分で自分を、何度も責めました。

(なんで、、、

なんで、セロハンテープなんかで、、、)

涙で滲んで、よく見えない手で、

何度も、何度も、欠片をくっつけようとしました。

( くっつけよ、、、!くっつけよっ!!

お願いやし、元に戻ってや、、、)

ボロボロ泣きながら、くっつけ続けました。

そしてお地蔵さんの前で、泣き続けました。

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その後、

T君の家族は、引っ越していきました。

何故、急に、T君の家が急に引っ越したのかは、

私の母も知りませんでした。

もう、2度と会う事も無いのだろうと、

悲しさで一杯でしたが、

それと同時に、T君に対しての後悔の念も強く残りました。

( T君、ごめん、、、

お地蔵さんの顔、

上手く、くっつけられんかったわ、、、) と。

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それから何年も経ち、

大人になって、知った事があります。

『 シミュラクラ現象 』

と、言うものです。

シミュラクラ現象とは、人間の目には、

3つの点が集まった図形を、

人の顔と見るようにプログラムされている、という脳の働きだそうで、

類像現象と言われてるみたいです。

果たして、

私が見た、T君の顔の傷の膿は、

『 シミュラクラ現象 』だったのでしょうか、

T君が、左耳から聞こえていた声は、

不安から来る、ただの錯覚だったのでしょうか?

今となっては、知る術もありません。

あの事件の後は、

私も、T君の子分も、そのお地蔵さんに、

近づかなくなってしまいましたし、

噂も広まり、学校の生徒も近づかなくなってしまいました。

後から聞いた話によると、

それから何年も経たない内に、マンションを建てると言う事で、

そのお地蔵さんも、

よその場所に移されたらしいです。

私は、

T君が昔のように、

今でも元気でいる事を、願わずにはいられませんが、

しかし、たまに思うのです。

あのお地蔵さんは、綺麗な顔に作り直してもらえたのだろうか、と。

それとも、

今でも、左頬が欠けているのだろうかと。

Concrete
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やはり罰当たりなことは、してはいけないね。

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