見目は果報のもとい
てなことを申しますが 美しく生まれたばっかりに 不幸な人生を歩まれたかたもいるようです
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平安のころ 旅の雲水が伊吹山中にて 可愛らしい赤子を拾いまして
これを美童丸と名づけて 裕福そうな家々の戸口へ立たせては 物乞いをさせていたそうです
やがて絶世の美少年へと育った彼を 今度は知り合いの寺へ売り払ったというから ひどい坊主もあったもんですな
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寺では お稚児さんとして重宝がられたようですが
美しいご婦人の相手ならまだしも 抹香くさい坊さんの夜伽じゃ嫌んなります
ついに我慢しきれず 寺へ火を放って逃げたんだとか……
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浪々の身となり やがてたどり着いたのが延暦寺
言わずと知れた 天台宗の本山であります
ここで僧として修行をはじめますが 美少年は頭を丸めてもやっぱり美少年
里の女どもが放っちゃおかない
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「やだもう可愛いっ!」
なあんて言われ あるときついに一人の後家さんと通じてしまいました
このことが 女嫌いで有名な伝教大師の耳に入りまして
「お前は破門だっ」てんで とうとう比叡山を追われてしまいます
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生みの親に捨てられ
育ての僧にも捨てられ
最後には大師様にまで捨てられて
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あな口惜しやな われ三たび捨てられしぞ
このうえは鬼となりて 世を呪いたてまつらん
なうまくさまんだ そわたやうんたらた……
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美童丸 ついには鬼へと変じてしまいました
これがご存知 酒呑童子でありまして 一説には「捨て童子」がその語源なんだとか
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とまあ 美貌が仇になったというお話でしたが
拝見したところ 読者の皆さまにおかれては そのような心配は ご無用と存じます
容姿は、人並みが一番。
呵々――
作者薔薇の葬列
掌編怪談集「なめこ太郎」その七十八。