短編2
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ヤコブ

久しぶりに玄関先を掃除していたら、表札のすみになにか落書きしてあるのを発見した。

マジックペンで書かれた小さな文字は、こう読めた。

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SW8~18R

子どもの悪戯などではなさそうだ。

ちょっと気味悪かったので、近所に住む姉に電話してみた。

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「それは、訪問販売員が付けてゆく目印よ」

姉は結婚するまで保険のセールスをしていたので、そういうことに詳しかった。

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Sは一人暮らし、

Wは女性、

Rは留守、

数字は、住人が不在にしている時間帯だという。

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飛び上がるほど驚いた。

まさかそんな個人情報が、表札のわきに堂々と書かれていたなんて。

空き巣狙いにでも見られたら大ごとだ。

急いできれいに拭き消した。

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ところがしばらくして仕事帰りに覗いてみると、また新たな文字が刻まれていた。

30DWKKKム

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姉によると、訪問を三回も断った三十路の独身女でしかも結構ムカつくやつだった、という意味らしい。

頭にきた。

私はまだ二十九だ。

それに勝手にやって来てムカつくとはなにごとか。

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「警察に通報してやる」

「だめだめ、そんなことしたってムダよ。

それより訪問販売が二度と来なくなる、秘密のおまじない教えてあげるわ」

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たぶん冗談に違いないと思ったが、藁にもすがる思いで聞いてみた。

それは目印の代わりに、ある聖人の名を記しておくというものだった。

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ヤコブ

ダ・ヴィンチの「最後の晩餐」にも描かれている、キリスト十二使徒の名である。

ところが神の奇跡だろうか、この名を記して以来、訪問販売がまったく寄りつかなくなった。

不思議に思って訊ねると、姉は笑いながら種を明かしてくれた。

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ヤ……やくざ

コ……怖いひと

ブ……金融機関のブラックリストに載っている

Concrete
コメント怖い
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