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短編2
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りんごのきもち

りんごはなんにもいはないけれど

りんごのきもちはよくわかる

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誰が歌っていたのだろうか、、、

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昭和の頃に一世を風靡した歌謡曲。

まだ子どもの頃、母が薄暗い台所でりんごを剥きながら、よく口ずさんでいたものだ。

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それを聞くたび、ひねくれ者のわたしは「りんごの気持ち」なんか分かるはずないのにと心の中で突っ込んでいたっけ。

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クラスメイトは皆帰り、窓からは朱色の陽光が射し込む夕暮れ時の教室。

窓際の机を挟んで、私と担任の大島は向かい合っていた。

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「誰にでも出来心というものはあるものだ。

先生は決して怒らない。

怒らないから、正直に言ってくれ」

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とつとつと語る大島の顔はどこかぎこちなかった。

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─違う、、、違う、、、私じゃない

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私は懸命に心の中で叫び続けていた。

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今日は給食費の提出日だった。

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放課後担任に一人づつ手渡すのだが、生徒の何人かが給食費の袋が無くなっていると騒ぎだした。

教室内が騒然とする中、大島は「取り敢えず今日は家に帰りなさい」と皆に言った。

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だが、なぜか私だけは居残りを命じられた。

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確かにうちは母子家庭でもあったし、裕福ではない。

高校に上がってからの私は何もかもが嫌になって学校をサボりゲームセンターで遊んだりタバコを吸ったりして、補導されたこともある。

だけど、、、だけど人のお金を盗ったりしたことは一度もない。

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何を言っても黙りこむ私にとうとう大島は諦めたのか、一回大きくため息をついて立ち上がる。

そして去り際に独り言のようにこう呟いたのを、私は聞き逃さなかった。

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─腐ったりんごが、、、

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幾日もの風雪に耐えて育ったりんごがちょっとした自然のいたずらで枝から落ちて傷付き、売り物にならなくなり、簡単に捨てられるということをふと思い出した。

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そして今ようやく母が口ずさんでいたあの歌の「りんごの気持ち」とやらが分かったような気がする。

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でも、もう遅かった、、、

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風圧で瞼も開けられないくらいの猛スピードで落ちる私の目前には既に、駐輪場の灰色の屋根が迫ってきていた。

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Fin

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「りんごは何も言わない」と言いますが、言ってもわかってもらえないのは辛いですよね。
最後、目前に迫ってきたのが地面ではなかったということは、彼女が二重の意味で救われる未来が待っていることの暗示だとよいのですが。

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