これは先日、俺のマンションの部屋で友人とDVD 上映会をしたときの話だ。
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例のウイルスの影響で大学が当分の間休講ということになってしまったので、暇を持て余した俺は同じ学部の友人を三人呼んで、マンションの部屋でDVD 上映会をやることにしたんだ。
といっても普通の映画とかではなく、ジャンルで言うと、いわゆる心霊投稿もの。
よくある一般の人が携帯とかで撮ったものに霊が映っていたというやつだ。
まあ恐らくは、ほとんどがヤラセだと思うけどね。
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ただこの上映会にはもう一つ、怖いもの好きな友人たちが集まる理由があった。
それは俺のマンションが事故物件だということ。
超現実主義の俺にとっては事故物件とかは全くノープロブレムで絶好の居住対象だった。
友人たちとしては何か不思議な心霊現象とか起こるのでは?と期待があったようだ。
不動産の営業曰くは、以前住んでいた若い女性がロフトの上で練炭自殺をしたということだったが、大学まで徒歩3分賃料は破格というこの物件に俺は迷わず飛び付いたのだ
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深夜ロフト付きワンルームの部屋の隅に置かれた大型液晶テレビの前に俺たちは並び、酒やジュースを片手にビデオを観ていた。
場を盛り上げるために部屋の電気は消した。
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フローリングの床にクッションを置いて左から、俺、アケミ、ユカ、ユウジという風に座っていた。
アケミとユカは友人どうしで、ユカはちょっと太めの普通の女子大生、アケミは何考えているのかよく分からない不思議ちゃんとかいうやつ
俺はどちらかというと読書とかが好きなインドア派で、対してユウジはバイクとかが好きなアウトドア派だ。
DVD の内容は予想はしていたんだが、やはりありきたりのヤラセっぽい代物だった。
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最初のやつは、
地元に帰った男が久しぶりに会った旧友と一緒に深夜、地元では噂のある曰く付きの廃墟を探索するものだった。
二人は懐中電灯を照らしながら、恐々と荒れ果てた建物の中を進んで行き、途中風呂場らしきところに入ると、奇妙な音が聞こえる。
不振に思った男が懐中電灯でバスタブの中を照らすと、排水口の辺りに一瞬長い髪の女の首が映る。
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次のは、
とある有名な滝壺を背景にカップルがお互いの写真を撮っているところから始まった。
吊り橋の上でふざけあいながら二人携帯で適当にあちこち写真を撮っていると突然、彼女の方が叫びだす。
彼氏が驚いて駆け寄ると、青ざめた顔をしながら彼女が滝壺の方を指差す。
見ると、ドウドウと落ちる滝の横手にある小さな鳥居の傍らに鎧兜に身を包んだ落武者の姿があった。
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まあビデオはこんな内容で進んでいて、案の定肝心の場面になると皆ワーワーキャーキャー悲鳴を上げていて結構盛り上がっていたんだけど、少し妙なことに気がついた。
というのはアケミなんだけど、皆が驚いてるところとは全然違うところで悲鳴を上げるんだ。
そう、まだ話の始まった辺りの場面とかの、えっ、ここ?というところで、いきなりウワッとかキャッとか、、、
それには俺たちも違和感を感じだしていた。
そしていよいよ最後のエピソードが始まった。
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これはネットでも有名な、とある廃トンネルに深夜、四人の若者が入って行くというものだった。
トンネルの入口に車を停めて、四人は各々片手に携帯、片手に懐中電灯を携えて歩きだした。
侵入禁止の柵を乗り越えて中に入る。
先頭に二人、その後ろに二人が続き進んでいく。
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そこで突然アケミがキャッ!と叫んだ。
ユウジとユカが、またかという白けた感じで彼女を見る。
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それから場面はどんどん展開していって、いよいよトンネルの天井に苦しげな男の顔が一瞬見えたとき、ユカが悲鳴を上げて身体を縮めていた。
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DVD が終わった後は皆で感想とかを互いに言い合っていた。
俺はせっかくの雰囲気を壊したくなくて、テレビと照明は消したままにしていた。
テレビはDVD が終了したので、真っ暗になっていたんだけど、そこからの若干の光で俺たち周辺への良い間接照明のようになっていたようだ。
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「俺はやっぱり始めの方の、バスタブの排水口にあった女の首が一番怖かったなあ」
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ユウジが少し興奮した様子で言うと、隣のユカが、
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「いや私は最後のトンネルが怖かった〰️」
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と身体を震わせる。
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ひとしきり盛り上がった後に、ユウジがアケミの方を見ながら言った。
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「ところでアケミさあ、お前時々変なところで悲鳴上げてたけど、あれって何か見えてたの?」
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いきなり突っ込まれたアケミは少し戸惑った様子を見せながらも、口を開いた。
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「いや私の見間違いかもしれないけど、何度かおかしなのが視界に入ったんだ」
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「おかしなの?」
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俺が尋ねる。
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「うん、、、だいたい画面右上の方だったんだけど、女の人の顔」
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「うわ、こわ!」
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隣に座るユカが声を出す。
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「でしょ、、、それが不思議なことに、いつも同じような顔で、、、」
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「どんな、どんな?」
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ユカが興味津々に尋ねる。
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「一瞬だったから、よく分からなかったんだけど結構若かったと思う。
でも何かすごく悲しそうな顔だった」
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「キャー!こわ!」
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大げさに悲鳴をあげるユカ。
すると、しばらく腕組みをしていたユウジが言った。
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「いや、それ、ちょっとおかしくないか」
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皆が同時にユウジの方を向く。
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「だってそれぞれの投稿は全く別物なんだから、同じ女の顔が同じところに映ってたなんておかしくないか?」
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「いやアケミも一瞬見ただけだから、実際はそれぞれ違う女だったかもしれないじゃないか?」
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俺が言うとユウジは「いや、それはそれで、おかしくないか?」と言うとアケミの方をじろりと見た。
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「確かにそう言われたら、違ってたかもしれない」
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ユウジに睨まれアケミは自信無さそうに言って下を向いた
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結局は何の進展もなくしばらくの間が過ぎた頃、俺は皆に提案した。
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「じゃあ、もう一回観てみないか?」
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皆も何かモヤモヤしていたのだろう。
そうしようということになった。
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俺はケースからDVD を取り出す。
その間3人はまたさっきと同じように各々テレビの前に座りだした。
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本編が始まり俺たちはアケミの記憶を頼りに画面の右上辺りとかを注意しながら、観ていった。
たまに一時停止とかもしてみて確認したが、結局問題の女の顔が現れることはなかった。
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DVD は終わり、画面はまた真っ暗になった。
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さすがに皆疲れた様子であくびをしたり、目を擦ったりしている。
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「あーあ、つまんない、結局、何もなかったね」
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ユカが残念そうに呟く。
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「ごめん、やっぱり私の見間違いだったみたい」
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アケミが申し訳なさそうに謝る。
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そして「俺、明日用事あるし、そろそろ帰るわ」というユウジの一声を皮切りに、じゃあ私も私もと立ち上がりだし、結局三人は帰っていった。
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皆が帰った後、俺は布団を敷くのも面倒だったからテレビの前に置かれたクッションを枕にそのまま寝ることにした
疲れていたのか、すぐに微睡みの泉に浸かっていった。
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─コトリ、、、
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時間はどれほど過ぎただろうか。
奇妙な音で俺は意識を取り戻した。
首だけを起こして辺りを見回す。
誰もいない薄暗い部屋はしんと静まり返っている。
点けっぱなしのテレビがボンヤリ光を放っているのが、どこか不気味だった。
俺はテレビの電源を切り、リモコンで室内灯を間接照明にする。
壁の数ヶ所にあるダウンライトがパッと点いた。
部屋の中が柔らかい朱色の灯で満たされる。
傍らの携帯を眼前にかざした。
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午前3時2分
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─まだこんな時間か?
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喉がからからだったから水でも飲もうと半身を起こし何気なくテレビ画面に視線を動かした、その時だ。
変な違和感を感じた俺はもう一度真っ暗な画面を見入った
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画面中央に映っている寝癖頭の俺。
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その右上に、、、
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何かが映っている。
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意識を集中させる。
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何だろう?、、、
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次の瞬間腰から背中にかけて冷たい何かが突き抜けた。
一気に心拍数が上がる。
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それは若い女の顔。
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よく見ると微かに目元や口元が動いている。
DVD はずっと前に終わっている。
ということは、、、
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俺は肩を震わせながらゆっくりと後ろを振り返った。
そして目線を薄暗い天井の辺りに動かしていく。
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「う、うわあ!」
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思わず叫びながら後ろ側に倒れた。
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淡いダウンライトにボンヤリ浮かび上がるロフト。
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その左端の柵の間にポツンと一つ女の顔があった。
黒髪の間から紫に変色した顔を露にして何か言いたげに懸命に口を動かしながら、じっとこちらを見ている。
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─ウウウウ、、、、アア、、、、ウウウウ、、、、
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女は苦し気に呻きながら実体のともわない影のような身体で這うように進むと、震える細い手をロフトの梯子の先端に乗せた。
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Fin
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Presented by Nekojiro
作者ねこじろう