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短編2
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大火の年

ついに、大鬼を封じ込める年がやってきた。

街の北東に位置する海岸の岬、そこには不気味な白い墓碑が町を見下ろしていた。 

1926年、歴史的大火の年。12月25日、まだ人々はイエス・キリストの生誕を祝うことなどはせず、大正天皇が崩御したことで新たな時代の幕開けを祝った日。

その日、この街は烈火の炎に包まれた。

並び立つ平屋は、みるみる炎に飲み込まれていく。大蛇のごとき炎はうねりながら、窮鼠の平屋を丸呑みにしていった。

冬枯れに吹く乾燥した空気が、その炎をより一層凶悪にした。

町民たちはその光景に、ただ呆然とするしかない。自然界の弱肉強食を目前にして、人間というものは無力だった。

しかしその最中、人々の絶望は希望へと変わった。

奇跡が起きたのだ。

街の大半を飲み込みかけていた炎が、刹那の間に消滅したのである。まるでそれは狐に化かされたように、あまりにも唐突だった。

町民たちは困惑することに精一杯で、何が起きたのかを考える余裕すらなかった。

これは昭和元年の不思議な事件であり、今もなおその詳細は全くもって詳らかにされていない。

しかし、それは当然のことである。

大火が大鬼の仕業だと言ってところで誰が信じるだろうか。そう、これは紛れもなく超自然的存在が引き起こした事件なのである。

そして、それは限られた人間のみが知る事実であり、一般には流布されることはない。

───

今年、私は古希七十の年を迎え、紫の日々を慎ましく過ごしております。

老いぼれた身ではありますが、私には使命があります。

十二月二十五日、今日は大鬼を封じ込める日です。

私は亡き母を思い、この日を待ち望んでおりました。

母は街の北東にある岬の墓碑で眠っております。そうして大鬼の祟りを封じ込めたのです。

大鬼の祟りは祈祷なぞでは太刀打ちできないほど巨悪でした。

そのために陰陽師たちが下した手段は─。

“人柱”です。

母は優秀な降霊師だったこともあり、その任に適当であると判断された。

町民の命を守るために、母は犠牲になったのです。

こうして街は、今も平和を賜われています。

母の亡骸の上に今の平和はあるのです。

しかし、もう限界のようなのです。

もう、限界のようなのです。

母の身体ではこれ以上、大鬼を押さえつけておくことはできないといいます。

ですから、私は今日という日を待ち望んでおりました。

 今日という、偉大な母もとに旅立てる日を。

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