ある日の晩、小学生のY君はお父さんにこんなことを教えてもらった。
「柘榴(ザクロ)っていう果物は人の肉の味がするんだよ。」
キュリアスな年頃のY君には衝撃的だった。
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次の日Y君は、友達のBちゃんに柘榴の話をした。Bちゃんもまた、その話に釘付けだった。
Bちゃんはちょっとヨダレ臭いけど、明るくて元気な、Y君の1番の友達だった。
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その日からだった。
Bちゃんの様子が急変した。
話しかけてもずっと柘榴の話ばっかり。
読書感想文も小中の卒業論文も「柘榴を食べてみたい」とだけビッシリ書いてあるなど、まるで柘榴に取り憑かれてしまったかのように。
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中学生になった頃、異彩を放っていたBちゃんの周りには人が寄り付かなくなり、虐められることすらなく、まるで空気のようにクラスの端っこで、植物図鑑の柘榴の所を見てはニヤニヤしていた。
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ただひたすらに柘榴は人の味がすると信じて。
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月日は流れ、Y君が社会人2年目の時。
仕事が休みの日に、小学生からの幼馴染と地元の定食屋で昼ごはんを食べていた。
Y君がトイレから帰ってくると、幼馴染が
「なぁY。あれBちゃんじゃね?」
とテレビを指差して言った。
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画面には午後のニュースが流れており、
『今日午前未明、東京都〇〇区の住宅街で、口元が血まみれの女性が叫び声をあげていると110番通報がありました。女性の手には刃渡り30センチの包丁が握られており、近くに住む〇〇〇〇さん(24歳)が意識不明の状態で発見されました。〇〇さんは身体の数十箇所を抉(えぐ)り取られており、その後搬送先の病院で死亡が確認されました。なお……』
テレビに映ったBちゃんの顔写真は、あの頃から何一つ変わってない気味の悪い笑顔だった。
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通報者のインタビューが始まった。
『怖かったです…外でなんか叫んでるな〜って思って聞いてたら、なんか
【ザクロ?の味じゃない】
とか
誰かが【嘘をついた】
とかなんとか言ってて。
しまいには【あいつも食ってやる】
とか聞こえ始めたので警察に連絡を…』
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ニュースは最後にこう伝えた。
『なお、女性は警察官の静止を振り切り、現在も逃走中とのことです。付近にお住まいの皆様は十分に警戒を…』
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shake
ガラガラガラガラガラガラガラ
定食屋の扉が開いた。
白のワンピースを血しぶきで赤く染めた女が立っている。
そしてY君を見つけるなりニタニタと笑った。
女は小走りでY君に近寄ると、彼の足に包丁を突き刺し、泣き叫ぶ彼の足を掴みそのまま店外へ引きずって行ってしまった。
幼馴染はただ震えることしかできなかった。
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数時間後。
Y君は河原で刺殺体となって発見された。
近くには喉をかっ裂いて息絶えているBちゃんも見つかった。
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警察が到着し検死に出されたY君の腹部はボロボロで、まるで熟れた柘榴のようだったという。
作者ぎんやみ