それは小学校の冬休みが始まったばかりの寒い日のことだったんだけど。
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ちょうどコロナが流行りだした頃のことで親や先生から外で遊ぶなと言われていたので、僕は友達のタツヤを呼んで家で遊んでいたんだ。
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初めは一緒にゲームしてたんだけどだんだんとつまらなくなって、かくれんぼでもしようかという流れになった
居間でタツヤが数を数えている間、あちこち隠れる場所を探す。
一階はすぐ見つかりそうだったから、二階に上がり自分の部屋の押し入れに隠れた
暗闇の中息をひそめて、重ねられた布団の上でじっとしていた。
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それから5分くらい経ったころかな
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頭の上の方からゴトリと音がする。
何だろう?とふと見上げた。
そしたら天井の羽目板の一ヶ所が勝手に外れて、そこからいきなり逆さまの白い顔が出てきたんだ。
僕は心臓が飛び出すくらいびっくりして大声を出しながら襖を開けると飛び出した。
僕の声に気付いたのか、タツヤが二階に上がってきて部屋に入ってきた。
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畳の上で尻餅をついている僕を見てタツヤが心配そうに「どうしたの?」と聞くから、さっき起こったことを話したんだ。
それでタツヤが恐る恐る押し入れに近づいた時だ。
押し入れの暗闇から、ぬっと白い人が現れた。
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「うわ!」
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タツヤが大声を出して後退りする。
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そいつは押し入れから出てくるとゆっくり床の上に立った
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身長は僕と同じくらいだろうか。
てるてる坊主みたいに大きな白い布地から頭と両手だけ出していて、顔はガスマスクみたいなのを付けているから見えない。
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「こんにちは」
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そいつは普通に日本語をしゃべった。
声質からして年齢は僕と同じくらい、いや、もっと上かも
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「きみ、、、、誰?」
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タツヤが直立したまま恐る恐る尋ねる。
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「驚かしてごめんな。
僕は、そこで腰を抜かしている彼の遠い遠い子孫でジーマというんだ」
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「僕のし・そ・ん?」
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僕は尻餅をついたまま言った。
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「うん。
正確に言うと、ボクはキミの子供の子供の子供の子供なんだ。
西洋の暦で言うと2298年の日本から来たよ」
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─2298年といったら、ええっと今が2020年だから、ええっと、ええっと、、、
まあ、とにかく、ずっと先の未来じゃないか?
しかも僕の子供の子供の子供の子供って、、、
何だかドラえもんの世界みたいだし。
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僕の頭の中は、もうかき混ぜた納豆のようにぐちゃぐちゃになっていた。
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「そんな遠い未来から、わざわざ何しに来たの?」
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タツヤが尋ねる。
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「良い質問だね。
ボクのお父さんが言うには、2020年の日本ではC ウイルスがまだ出始めでそこまでその影響も深刻じゃないから、冬休みの間に直接に行って体験してこいと言われたんだ」
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「深刻じゃない?いやいやいや、そんなことないよ。
たくさんの人が感染してて死んだ人もいるし、僕らも今冬休みなんだけど外に遊びにも行けないんだよ」
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タツヤが口を尖らせて言った。
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「ハハハハ、、、
外に遊びに行けないとか全然大丈夫じゃん。
ボクなんか生まれてから一度も『太陽』というのを見たことがないし。
もちろん『空』も」
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「はあ?」
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僕とタツヤは二人揃って声を出した。
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「ボクの今生きている時代の人はみんな地下で暮らしているんだよ」
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「地下に、、、どうして?」
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僕は尋ねた。
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「キミらはまだ知らないだろうけど、C ウイルスというのは元々ある国が開発した生物兵器が研究所から漏れてしまったことが発端だったんだ。
キミらが今困っているコロナはあと数年で特効薬が開発されて駆逐されるんだけど、その後さらに強力で恐ろしいC コロナの変性種が蔓延するんだ」
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「変性種?」
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「うん、さらにハイブリッドなやつ。
これに感染するとまず風邪と同じような症状がしばらく続いてね、その後40度以上の高熱になって最後は脳をやられてしまい身内とか友人とか見境なく襲いかかるようになってしまう。
そして最後は身体中が腐りだして死んでしまうんだ」
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僕もタツヤも目の前にいる未来から来た少年の話を、ただ唖然としながら聞いていた。
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「この変性種はあっという間に世界中に広がり医療は崩壊、経済は停滞、あちこちで暴動とかも起こり多くの人が亡くなってしまう。
製薬会社や学者たちは必死にワクチンを開発しようとするんだけど、なかなかうまくいかない。
そうこうしているうちに大変なことが起こった」
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「ウイルスに感染したある国の独裁者が、どういう理由か周辺の国を核攻撃し日本も被爆してしまう。
そこから世界のあちこちで戦争が起こるんだ。
日本は政治的にも経済的にも社会的にも決定的なダメージを受けてしまうんだ。
ウイルスは蔓延していて、さらに死の灰が全国の土地に降り注ぎ植物は荒れ果て地上は人間が住めないところになってしまった。
しょうがないから各地で巨大なシェルターを建築を進めて、やがて皆そこに住むようになった。
と、ここまでは教科書で学んだことなんだ」
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「ボクが物心つく頃には表に出ても見上げても見えるのは彼方に微かに広がる白い天井だけで青い『空』とか赤い『太陽』とかは、教科書の写真でしか見たことがない。
だからボクは冬休みを利用してそれらを見に来たんだ」
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僕とタツヤはジーマを連れて外出をすることにした。
ただそのままの格好ではまずいから、僕の持っているジャージの上下を着てもらった。
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家から歩いて10分ほどの川沿いの土手まで歩き、そこで僕らは3人立ち並んだ。
太陽は彼方に広がる山の端に、その姿を隠そうとしている
ほんの数十メートル先のところにある大きな川は鮮やかな朱色に染まっていた。
ふと隣に目をやると、いつの間にかジーマはマスクを外している。
病的に色白で端正な顔も朱色に染まっていた。
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「キレイだなあ、、、
本物の空や太陽って、こんなにこんなにキレイだったんだね」
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そうボソッと呟いたジーマの澄んだ二つの瞳からは熱いものが流れていた。
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それから僕らはコンビニに立ち寄り肉マンやジュースを買ってから家に戻り僕の部屋で食べた。
ジーマはこんなもの今まで食べたことないと言いながら、嬉しそうに肉マンにかぶりついていた。
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それからタツヤが帰った後も部屋でジーマと楽しく話していたんだけど、夜両親が仕事から帰ってくると彼は「もう行かなくちゃ いろいろありがとうね」と言いまた押し入れの中に消えていった。
きっと屋根裏にタイムマシンみたいなのがあるんだろうな
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その夜の僕は興奮して、しばらく眠ることが出来なかった
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その翌日の日曜日朝のことだ。
二階から降りて居間に行くと食卓のテーブルで両親が向かい合って何やら深刻に話している。
「どうしたの?」と聞くと、
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「今朝早くそこの養護施設のスタッフの方が来てね、ずっと施設で暮らしていた男の子が脱走したから何かあったら連絡下さいって顔写真をおいていったの。
別に暴力をふるうような子ではないそうなんだけど、かなりの虚言癖があるそうよ。
あんた近くでそんな子見掛けなかった?」
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と言って母は一枚の顔写真を僕に手渡した。
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Fin
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Presented by Nekojiro
作者ねこじろう