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長編9
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ひとりじょうず

「ねえ悠太、今月24日のクリスマスだけど、どうする?」

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デザートとして出されたチーズケーキの柔らかさをスプーンで確かめながら、わたしは向かいに座る悠太に少し甘え口調で尋ねる。

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都心の百貨店最上階のイタリアンレストランは土曜日の夜ということもあって、そこそこ賑わっていた。

二人が初めて出会った去年の今日、12月5日。

わたしと悠太は夕暮れ時からおちあって、この百貨店でお互いのプレゼントを買い、都心の夜景を見渡せる窓際のテーブルで交換し合った。

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小さなカップに入ったコーヒーを苦そうに一口飲むと、悠太はいつもののんびりした様子で答える。

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「そうだなあ、24日は木曜日だから、会えるとしたら26日かな。

旅行はこの間したばかりだし、、

あ、ちょっと待って」

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そう言った後、何か慌ててブラウンのジャケットの内ポケットからスマホをだすと、素早く指先で画面をタッチする。

どうやら、誰かから電話のようだ

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「あ、ママ? 

うん、今、乃亜と一緒。

、、、、、、、、、、、、、、、

え?

いや大丈夫だよ、、

9時には帰るから、、

ところで、あのさあ、、、、」

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楽しそうに電話のやり取りをする悠太を眺めながら、わたしは、やれやれと軽くため息をついた。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

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ちょうど1年前の今日、失恋のショックで落ち込んでいたわたしを見かねた友人が、婚活パーティーに誘ってくれた。

わたしはいわゆるアラフォーで、一人で生きていくのが楽と感じるいわゆる「ひとりじょうず」に成りかけていたのだが反面、結婚ということにも、まだ一縷の夢や希望を抱いていたのも事実だ。

そんな状態で参加したパーティーだった。

トークタイムで同席した悠太は39歳の艶やかな肌をした爽やかスポーツマンタイプで、まず見た目がタイプだった。

仕事は公務員で年収もそこそこあり、性格は穏やかで優しく、結婚相手としても申し分なかった。

─こんなに素敵な人がどうして今まで一人だったのだろう?

何か問題とかあるのでは?

もしかしたら、彼も「ひとりじょうず」?

等と下世話な詮索を色々したのだが、そんなことを考えても何も進まない。

これも神様が与えてくださった一つの縁と考えて、どちらかというとわたしの一方的なアプローチから交際は始まり、今日でちょうど1年になる。

本当にわたしにはもったいないくらいの相手なのだが、一つだけ不満があった。

それは、彼が典型的なマザコンだということ。

父親を幼いときに病気で亡くし、母の手一つで育てられた悠太にとって母親との絆は、世界中の誰よりも強いもののようだ。

大学進学のときも、就職先を選ぶときも、人生の重大な局面を決定するときは全て、母親の意見を9割取り入れてきたらしい。

だからわたしと一緒にいるときも、全く気兼ねなく母親に連絡をとる。

この間一緒に車で旅行に行ったときもそうだった。

出発するとき、まず電話

高速のパーキングで休憩するときに、電話

ホテルに着いてチェックインが済んだら、電話

ベッドに入る前には「おやすみなさい」の電話

一度だけ、このことに対して不満らしきものを言ったことがあったのだが、子供が親を大事にすることの何がおかしいの?と、逆に説教をされる始末。

まあ、このこと以外は問題のない人だから、わたしがここだけ我慢すればいいか。

こんな条件の良い人は後にも先にも無いかもしれないし、と無理やり納得している。

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「なあ、乃亜」

電話を終えた悠太が話しかけてきた。

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「今度の土曜日だけど、一度、ママに会ってくれないかな?」

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「いいよ

わたしも一度、悠太のお母さんに会ってみたかったから」

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「良かった

じゃあ、前の日に改めて連絡するから」

そこまで言って悠太は「ちょっとトイレ」と立ち上がり、席を離れた。

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─まあ、いずれは会わないといけない人だから、今のうちに会っておこうかな。

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わたしは素直に嬉しかった。

というのは、悠太のこのお願いは、彼のわたしに対する信頼がより一層深まったといえるからだ。

わたしはホッと一息つくと、テーブルに置かれた悠太のスマホに、何となく目をやった。

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画面には、送信着信履歴がズラリと並んでいる

いけないこととは思ったが、わたしはそれを手に取り改めて見た。

そこには本日の悠太の通信記録が時系列に並んでいる。

しばらくそれを見ていたわたしは、おかしなことに気付いた。

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着) 12月5日 17時02分 乃亜

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これは約束の場所に先に着いたわたしが、悠太に電話したときのものだ。

送受信の記録は、これが最後になっている。

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─おかしいなあ、たった今、お母さんから電話があってたはずなんだけど、、、

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何となく画面をスクロールする。

わたしの名前や彼の友人らしき名前とかはあるが、

「母」、「母さん」、「ママ」などの名称が見つからない。

もしかしたら、違う名称で登録しているのだろうか。

例えば、下の名前とか。

いや普通、子供が母親を携帯に登録する場合、まず下の名前とかではしないだろう。

わたしは不思議に思いながらも、スマホを元の位置に戻した。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

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そして約束の12日の前日のこと。

翌日の予定について悠太から電話があったのは、深夜零時に近い頃だった。

既に床についていたわたしは、布団の中で携帯を耳にあてる。

悠太の声はいつもとは違い、何だか暗い印象を受けた。

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「遅くなってごめん。

実はママの体調がよくなくて、今日は会社を休んで看病しているんだ」

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「え!じゃあ、明日は中止にしようか?」

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「そうだなあ、、、」

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その時だった。

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悠太とは別の人の声が遠くから聞こえてくる。

それは老いた女性の低く掠れた声だった。

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「私だったら大丈夫だって言ってるでしょ

何度言ったら分かるの?」

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どうやら、母親が離れたところから怒鳴っているようだ。

再び悠太の声が聞こえてきた。

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「ごめん、やっぱり明日、来てくれるかな?

ママが乃亜に会いたいみたいだから」

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「うん、じゃあ何時にどこで?」

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「いや、明日は一人で来て欲しいんだ」

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「え!一人で?」

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突然の悠太の依頼に、わたしは驚いた。

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「ママが心配だからね、、、

場所はメールで送るから」

そう言って、悠太は一方的に電話を切った。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

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翌日、悠太からメールで送られてきた地図と説明を頼りに、わたしは午後3時過ぎに車で家を出た。

悠太が母親と住んでいるのは、隣県の郊外にある古い集合団地のようだった。

昭和の終わりに山を切り崩して建てられたであろうその集合団地の姿が山道の右前方から視界に入ってきた時、車内のデジタル時計は、約束の16時になろうとしていた。

太陽は彼方に見える山の端まで降りてきていて、辺りは随分薄暗くなってきている。

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敷地内に進入し、縦一列に並ぶ灰色の棟を横目で見ながら、悠太の住む3号棟を探す。

見つけると、団地入口前に車を停め、エンジンを停めた。

右手に目をやると、番号のふられた駐車場が区画されている。

端の方に1台の黒い軽自動車が停まっているだけだ。

アスファルトのあちこちは地割れを起こし隙から雑草が生えているのが、何だか寒々しい。

正面に見える団地入口右手には荒れた集合ポストがある。

その下には子供用の錆びた三輪車が一台倒れていて、風でタイヤが寂しそうにカタカタ回っていた。

どうやらエレベーターは無さそうだ。

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─何だか、お化けでも現れそう

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ちょっと背筋が寒くなった。

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さっそく携帯で悠太に電話をすると、すぐに出た。

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「あ、悠太?今着いたんだけど」

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「分かった。

そしたら悪いけど、階段で3階まで上がってすぐの301号に来てくれる?

鍵は開けとくから」

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わたしは車を降りると、厚手の黒いコートを羽織る。

そして団地の正面入口から入り、コンクリートの階段を登っていった。

ようやく3階まで登りきると、いきなり正面に301号の赤茶けた鉄の扉が視界に入ってきた。

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「こんにちはー」と言いながら、ゆっくりドアを開ける。

ギギギという軋む音と共に空気が動き、生暖かい臭気が鼻を直撃した。

それはなんとも言えない生ゴミのような臭いだ。

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─何?この臭い、、、

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わたしは思わず手で鼻を覆う。

下を見ると狭い玄関口に、男物の革靴と女性用の白のパンプスが並んでいる。

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「どうぞー、遠慮なく上がってちょうだい」

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薄暗い廊下の奥から、女の低く掠れた声が聞こえてくる。

昨晩電話から聞こえたあの声だ。

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「失礼しまーす」

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出来るだけ明るい口調で返事をし靴を脱ぐと、薄暗い廊下を真っ直ぐ進む。

突き当たりのドアを開けると、そこは居間のようだった。

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食卓用のテーブルに椅子、その向こうのサッシ窓からはベランダの手摺越しに、鮮やかに赤く染まった鰯雲が覗いていた。

左奥のテレビからはバラエティー番組だろうか、時折けたたましい笑い声が聞こえてきて、ハッとする。

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─悠太はどこにいるのだろう?

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生ゴミのような臭いはさらに強まっているみたいだ。

わたしは顔をしかめた。

すると、右側の閉め切った襖の向こうから悠太の声が聞こえる。

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「乃亜、そっちにいるのか?

こっち入って来いよ」

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どうやら、奥にも部屋があるようだ。

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「お邪魔しまーす」

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言いながら元気よく襖を開け、中を覗いた途端、強烈な腐敗臭が鼻をついた。

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─う!

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耐えられず鼻を押さえて下を向き、徐々に顔を上げていく。

それからわたしの頭が目の前の奇妙な光景を理解するのには、しばらくの時間を要した。

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サッシ窓から射し込む弱い西日に照らされた、8帖ほどの畳部屋。

その真ん中に、広めの座卓が置かれている。

座卓の前には、悠太がこっち向きに正座して微笑んでいた。

ただ、いつもと様子が違う。

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彼の背後の壁沿いには布団が敷かれ、白髪の女が一人天井に顔を向けて横になっている。

掛け布団から覗くその顔はミイラのように干からびていて、呆けたようにぽっかりと口を開けていた

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そして改めて悠太の姿を見た途端、わたしの背中はぞくりと粟立った。

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彼は何故か女物の明るいブラウンのかつらを被り、どう見てもサイズの合わない真っ赤なワンピースを無理やり着ている。

顔にはかなり濃いめの化粧をしているのだが、何か変だ。

よく見ると、顔の左半分だけ化粧をしているみたいなのだ。

どぎつい青のアイシャドウと真っ赤なルージュをひいた顔を不自然に崩しながら微笑む悠太が、

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「ほらほら、何そんなとこにぼんやり突っ立ってるの?

あんた、挨拶も出来ないの?

だから、最近の若い娘は、、、」

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まるで意地悪な姑のような口調で、わたしに愚痴を言う。

すると今度は、あたかも隣に誰か座っているかのように左に顔を向けると、いつもの悠太の横顔をこちらに見せながら、

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「ママ、そんなこと言うなよ。

乃亜は初めてで緊張しているんだから」

と、わたしを庇う。

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すると今度は右を向き、濃いめの化粧の横顔をこちらに向け、

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「あなたは黙ってなさい。

こういうことは最初が肝心なの!

だいたい、あなたは女というものが分かっていない。

この間のチャラチャラした女のときなんか、、、」

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とまた、あの低く掠れた女の声で言いかけたかと思うと、

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「ママ、その話はもう止めてくれよ。

それはもう終わったことなんだから」

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と、悠太の横顔を見せながら困ったような様子で遮る。

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─何なの、これは?

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わたしの頭の中は理解の限界を越えようとしていた。

まるで親子が言い合いをしているかのような声が飛び交う中、わたしはジリジリと後退りすると、

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「ごめんなさい!」

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と大声で言ってピシャリと襖を閉め、玄関に向かって全力で走った

転がるように階段を一気に一階まで降りると、大急ぎで車に乗り込み、慌ててエンジンをかけ、思い切りバックする。

そして走りだす直前、フロントガラス越しに、ふと3階のベランダに目をやった時だ。

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再びわたしの背中はぞくりと粟立った。

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サッシ窓から漏れる室内からの光にボンヤリ照らされた二人が並び立ち、柵に手を乗せじっとこちらを見ている。

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一人はライトブラウンのかつらに真っ赤なワンピース姿の悠太で、

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もう一人は、、、

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白いネグリジェを着た白髪の痩せた女だった。

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